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No.1445 どら?衛門!
12月1日(日)の大河ドラマ「光る君へ」(第46回「刀伊の入寇」)の終わりの方で、藤原道長の正妻倫子と、お仕えする赤染衛門との会話にグッと引き寄せられました。
土御門殿(道長の邸宅)でのこと。
赤染衛門を前に、物語を読む倫子の姿がありました。
倫子「殿の栄華の物語を書いて欲しいと申したと思うが。」
衛門「そのつもりで書いておりまする。」
倫子「でも、これ、宇多の帝から始まっているわ。殿がお生まれになるより、はるかに、昔だけれど。」
衛門「お言葉ながら、藤原を描くなら大化の改新から書きたいくらいにございます。とはいえ、それでは、太閤様の御代まで私が生きている間に書き切れないと存じまして、宇多の帝からにいたしました。」
倫子「殿がお生まれになった時は、村上の帝の時ゆえ、そこからでよいではないかしら?」
衛門「枕草子が、亡き皇后・定子様の明るく朗らかなお姿を描き、源氏の物語が、人の世のあわれを大胆な物語にして描いたのなら、私がなすべきことは何かと考えますと、それは歴史の書であると考えました。仮名文字で書く史書は、まだこの世にはございませぬ。歴史をきちんと押さえつつ、その中で太閤様の生い立ち、政の見事さと、その栄華の極みを描き尽くせば、必ず後の世までも読み継がれるものとなりましょう。」
(ちょっと、間があって)
倫子「もう、衛門の好きにしてよいわ。」
赤染衛門の気概に、命じた主人の倫子の方が押し切られた格好です。たしかに、清少納言は随筆の手法を取りながら、お仕えした中宮定子の快活な姿を書き残そうと『枕草子』を書いたと言われます。また、紫式部は、仮名物語の分野で人の世の機微や哀歓、光源氏の生涯を描きました。赤染衛門は「殿(道長)の栄華の物語を書け」と倫子から命じられた時、どういうジャンルで自分の得意とする表現が出来るか、ずいぶん考えた事と思います。
その結果、
「仮名文字で書く史書は、まだこの世にない。」
という光明を見出したのではないかと想像します。『枕草子』や『源氏物語』あっての『栄華物語』だったのかもしれないと思うと、立て板に水が流れるような赤染衛門の堂々とした主張がスーッと沁みるように入って来ました。女性にも読んでもらう歴史書を意図しての著作だったのでしょう。赤染衛門の思い切った作戦と、そんな解釈を示した脚本家の視点・表現にシビれました。
では、どうして宇多天皇から始めることになったのでしょう?
宇多天皇の孫である源雅信(父は、宇多天皇第8皇子の敦実親王)は、宇多源氏の祖であり、政治的に確執のあった藤原兼家の息子・藤原道長(966年~1028年)の妻・源倫子(964年~1053年)の父です。道長は、倫子の父・雅信の説得により倫子と結婚しました。「光る君へ」の中では、倫子の母・穆子からめっぽう惚れられたように描かれていました。
また、赤染衛門が仕えた源雅信・倫子親子の高貴な家柄についても、暗に伝えようとしているのではなかろうか?そのようなお家に仕えている自分を誇らしくも思って書いているのではあるまいか?そんな気もしてきます。
そして、宇多天皇の孫にあたる第62代・村上天皇(926年~967年)には道長の父・兼家(929年~990年)の姉・安子(927年~964年)が入内し、村上天皇の子の第63代・冷泉天皇(950年~1011年)には道長の姉の超子(954年~982年)が嫁し、冷泉帝の弟の第64代・円融天皇(959年~991年)には、これも道長の姉・詮子(961年~1002年)が輿入れしました。
さらに円融帝と詮子の息子の第66代・一条天皇(980年~1011年)には、道長の長女・彰子(988年~1074年)が中宮として入内します。冷泉帝の第二皇子だった第67代・三条天皇には、道長の次女・研子(994年~1027年)が嫁ぎます。一条帝と彰子の長男で第68代・後一条天皇(1008年~1036年)には道長の三女・威子(1000年~1036年)を入内させ、後一条帝の弟で第69代・後朱雀天皇(1009年~1045年)には、道長の六女・嬉子(1007年~1025年)が嫁ぎました。
このように見てくると、天皇の血筋と道長の家系との無限ループが続くかのような妄想にかられます。それは、宇多源氏の家系と藤原氏あっての繁栄・栄華でした。赤染衛門は、そこに注視して宇多天皇からの筆を起こしたのではないかと思うのです。その理由について、どらどらと興味本位で系図から観てきたのですが、衛門は凄かった。どら?衛門凄し!
※画像は、クリエイター・わたなべ - 渡辺 健一郎 // VOICE PHOTOGRAPH OFFICEさんの「十二単」の1葉をかたじけなくしました。平安朝の宮中の雅な装束の衣擦れの音が聴こえて来そうです。お礼を申し上げます。