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No.1464 A先生
あらま、こんなことを!
日付は、1998年(平成10年)4月23日とありました。私のその学級通信には、「シリーズ・恐科担任の巻(2)」として、2学年長のA先生を紹介していました。
我らが2学年長〇〇省三先生のご登場である。
『論語』(学而篇)の中に「吾日三省吾身」(吾、日に吾が身を三省す)とあるが、この名言を名前に戴いたものかも知れない。ユーモアやウィットに富んでおり、発想が豊か。浪花節的人生観なるも、人間味・優しさ・思いやりに溢れる人物。
教科は「日本史」を担当。考古学に造詣があり、学者肌である。誕生日は、7月4日。趣味・特技はバレーボール。本校、女子バレーボール部の部長でもある。
「平凡でしたが、充実していました。」
と、高校時代・高校生活に悔いはなさそうである。
勉強以外に、生徒に勧めたい事として、
「スポーツ。集団のスポーツと、個としてのスポーツが出来れば…」
とおっしゃった。青白いソクラテスになるばかりではなく、心身共に磨かれよというお考えのようである。確かに高校・大学時代までに培った体力で一生を生きると言ってもよい。
「生徒に期待すること」の欄に、
「失敗を恐れない行動力と、その為の判断力を身に付ける努力を望みます」
とあった。若さの象徴ともいえる旺盛なチャレンジ精神と、是非善悪や、けじめをきちんとつけることの出来る人間的成長を期待しておられる。
読書をよくされるA先生から、生徒に薦めたい本として『君たちはどういきるか』(吉野源三郎著)をあげて下さった。若者を対象に、生き生きとした文体で書かれており、倫理小説の草分けと言われる本です。一読を乞う。
「歴史は繰り返す」とか。歴史を通して、人の世の真実に迫って欲しい。
何ともまあ、口はばったいことを書いたものですが、A先生は笑って記事の紹介を快諾してくださいました。この学級通信は1998年に書かれたものです。その後『君たちはどう生きるか』が大きな話題となって取り上げられる二つの時期がありました。
最初の時期は2017年(平成29年)8月に『君たちはどう生きるか』(原作・吉野源三郎、漫画・羽賀翔一)が漫画化されたことです。なんと約2カ月間で43万部という大ヒットとなり、翌年の1月には、早くもミリオンセラーとなりました。2023年8月時点で200万部を超えているそうです。
二つ目の時期は、2023年(令和5年)7月公開の、宮崎駿監督「君たちはどう生きるか」です。日本を含む、32ヵ国で上映され、 2024年4月の時点で、世界興行収入は約410億円(1ドル=154円換算)だったとか。 映画作品と原作品との間に大きな乖離があり、賛否両論はあるようですが、監督自身が捉えた「君たちはどう生きるか」論なのでしょう。その意味で、原作なしに生まれる作品ではなかったのかもしれません。
いずれにしても、『君たちはどう生きるか』に関する漫画と映画という二つの作品が世に行われるよりも20年も早く、A先生は生徒たちにその読書を薦めて下さっていたことに強い敬意を覚えました。A先生は、2009年(平成21年)3月に定年退職され、その6年後に病没されました。70代を迎えることは叶いませんでした。日本酒の好きな、酔うと得意な歌を披露して下さる大好きな先生でした。
省三先生を慕いながらも、日々の三省を忘れがちな不肖の後輩に、さぞ苦笑しておられることでしょう。あっという間の10回忌でした。
※画像は、クリエイター・はとさんの、タイトル「『漫画 君たちはどう生きるか』〜吉野源三郎 漫画:羽賀翔一」をかたじけなくしました。発刊から7年も経つのですね。お礼を申し上げます。