No.1392 「見てくれ」見てくれ!?
「人品卑しからぬ」
「人品骨柄卑しからぬ」
そんな風に見える七十代の男性を見ました。1か月ほど前、診察で病院を訪れた時に、受付ロビーで見かけました。
それまでは、病院のチェックカード1枚を1回受付機械に読み込ませるだけで事足りていたのに、先月からそのシステムが変わりました。
①「マイナンバーカード」か「保険証」をリーダーで読み取らせ、受諾事項を確認。
②病院のカードを受け付け事務員2名がパソコンに入力し、患者の確認作業をする。
③病院の受付機にカードを挿入すると、受付番号と診察内容が印刷されて出てくる。
の3つの手順を毎回踏まねばならないようになりました。
それでなくても受診者が多く、9時からの診察開始ですが、先日、9時5分に到着したら、受付番号は200番台でした。幾つもの診察科がある病院ですからそうなるわけですが、少しでも早く受診したいと気が急くのは、誰も同じです。
前回、その3つの受付がロビーで始まった頃、混雑して少し長い列が出来ました。その中に「人品卑しからぬ」その男性がいました。頭のてっぺんから爪先までビシッと決まっています。細身で、若い頃はさぞモテたであろう容貌の持ち主でもありました。
「こんな人もいるのか!」
と思わず天を仰ぎたくなるほど私とはかけ離れた存在に見えました。
ところが、その男性が、②のパソコンで受付作業をしていた女性が少しもたついていると見るや、
「早うしてよ!いつまでかかるんかい!」
といきなり声を荒げました。
「まだ出来んのかい?どげなっちょるんかい!」
と大きく溜息をつき、食って掛かるのです。
新しいシステムになったばかりで、担当の女性も不慣れだったのかもしれません。お世話になるのはこちらであり、機械の作業に時間のかかることもあるだろうにと、見た目とは大いに異なる男性の男を下げた言動に、周囲の人々もあきれ顔でした。
「こんな人もいるのか!」
男性は、受付の女性からカードをひったくるように受け取ると、③のカード読み取り専用機に進み、2枚の用紙をつかんで急いで階段を上がっていきました。
「せまい日本 そんなに急いで どこへ行く」
は、今から51年も前の1973年(昭和48年)の交通安全年間スローガンで、内閣総理大臣賞を受賞した作品だそうです。スピードの出し過ぎをたしなめたその句を思い出しました。
私にも覚えがありますが、歳をとると気短になり短慮することがあります。立派に見えた紳士は、先を急いでいたのかもしれません。しかし、相手への敬意を忘れ、自分本位に思いを述べ、平気で相手を非難する。自分の思い通りにならなければ、すぐにクレームの言葉を投げかける心の程は、不快でした。近くに子供のいなかったことだけが、せめてもの救いでした。
見てくれも大事だと思う派の私ですが、
「人を見てくれだけで判断してはならない。」
の警句の確かさに、改めて気づかされたように思いました。
※画像は、クリエイター・ニエタギルゴボウさんの「老人・高齢者・病院」の1葉をかたじけなくしました。その表情に思い当ったりする私です。お礼申し上げます。