
No.1529 たのしみ
「昔」って、どれくらい?
「十年一昔」と言いますが、そのひと昔前の、見知らぬ中高生たちからページ越しに声を掛けられました。
「母の声1オクターブ舞い上がる着信履歴は遠い兄から」
高校2年・女子
●母親は初恋の人の感覚で息子を見るのでしょう。娘の視線や聴覚の鋭さに「ほ」。
「エシャロットこいつは何に使うんだちょんまげ風の異国の野菜」
高校3年・女子
●「エシャロット」私には未知の食べ物ですが、知的好奇心旺盛な女子高生を虜に?
「違うんだ一人ぼっちと独りぼっち一人はいいが独りはいやだ」
高校2年・女子
●「一人」は人数、「独り」は状態。尾崎放哉は「咳をしても一人」としたけれど。
「食卓のサンマの腸(はらわた)口に入れ大人になったふりをしてみる」
高校2年・女子
●去年、秋刀魚は食卓に上らずじまい。ビールも腸もタラの芽も美味いものは苦い。
「SNS何も言わずに嘘をつく匿名だからと指で毒盛る」
高校2年・女子
●21世紀に入り、SNS上ではフェイク(虚偽)情報の応酬。真偽の見極めが課題。
「英語には遺品という語なきことを爆心地より戻り来て知る」
高校2年・女子
●日本の様に「戦争の遺品」を端的に言い表す言葉はないのかな?言葉の重み。
「御嶽山救助に向かう父のLINEもしものときは家族を頼む」
高校3年・男子
●長野と岐阜の県境に位置する御嶽山(標高3,076m)は、2014年(平成26年9月27日、11時52分に突然噴火し、登山者の死者・行方不明者63人を出しました。二次災害の危険性もあり、救難者も命懸けであったことが、家族(高校生)の歌にも表れています。今も生々しく脳裏に残るあの悲劇の事故から、11年もの歳月が流れようとしていました。
「たんぽぽのわたげのように世の中へ友も私も別れ飛び立つ」
中学1年・女子
●「我が友とふたたび会はむその日まで追ひかけてゆくそれぞれの夢」(愛子さまの令和7年の歌会始の詠進歌)を思い出しました。中1の彼女も再会を約束したのでしょうね。
図書館にあった『31音 青春のこゝろ』(「SEITO百人一首」の世界・同志社女子大学編)で見つけた数々の歌に、あれこれ考えさせられました。ひと昔前の歌集でした。
「生徒」という漢字は「いたずら(徒)にい(生)きる」と読めますが、もともとは「生」と「徒」の複合語だそうです。「徒」は弟子を指し、上につく「生」には「未熟」の意味がこめられており、「生徒」とは「未熟な弟子」の意味になるといいます。
しかし、とてもそうは思えない中学・高校の生徒さんの瑞々しい歌が並んでいました。紙の手触りがゆかしい、懐かしいインクの匂いの本でした。
「α(アルファ)世代とは、2010年以降に生まれた世代を指し、Z世代に続く世代です。デジタルネイティブとも呼ばれ、デジタルデバイスを自然に活用できるのが特徴です。」
「AIによる概要」に「α世代」のそんな説明がありました。たしかに、デジタル機器になじんでいる今世代の若者たちが、この先、どんな17音や31音を紡いでくれるのか、とても楽しみです。韻文は、日本人の心を掬う器です。
※画像は、クリエイター・mi-koさんの、タイトル「ヴィヴァルディ 春〜 宇宙杯より愛を込めて(ぷ活動vol.2)」の1葉をかたじけなくしました。春はすぐそこです。お礼申し上げます。