見出し画像

No.1501 虫愛ずる嫗

それは、衝撃でした。意表を突かれたような新俳句でした。
「なめくじは走っているのかも知れず」
 
2006年(平成18年)の第17回「伊藤園おーいお茶新俳句大賞」の一般の部B(40歳以上)で大賞を受賞したのは、77歳の女性でした。
「雨あがりぼんやり見ていると、なめくじが地面に這いつくばっている。みんなから嫌われても嫌われても一生懸命生きているではないか!そうかお前も世のさまに遅れまいと、実は走っているのだろうか。」
と大阪府のこの作者は、心境を述べていました。
 
「虫愛ずる姫君」ならぬ「虫愛ずる嫗」の誕生です。「いびしー」「うたちー」(大分弁で、「気持ち悪い」「汚い」)虫として、さげすまれ、忌み嫌われる存在ですが、グッと目を近づけ、ジッと観ている老婆の姿を想像して、微笑ましくも、愛おしくも感じました。ナメクジは作者自身、いや、私もその仲間だと感じたからかも知れません。
 
意外性と言うだけでなく、小さな生き物を角度を変えて観ることによって、人と同じ身近な存在として認識されるようになる、この女性の柔らかな視点と発想にしびれました。
 
ナメクジとカタツムリは、どちらも巻貝の仲間である陸産貝類で、先祖は同じだそうです。丸い巻き貝状の殻を持つのがカタツムリで、殻が無いか殻が退化して見えないのがナメクジと言われます。近い縁の生き物ですが、両者は別の生き物だといいます。
 
とはいえ、ナメクジと縁故のカタツムリだって、かけっこしている可能性が無いわけではありません。カタツムリの速さは、分速10㎝前後、時速5〜6mだとネットの親切さんから教わりました。結構やります!ところが、日本理科検定協会のナメクジの速度実験では時速14~15mくらいになったそうで、私の予想をはるかに超えた速さでした。
あるいは「走っているのかも知れず」と本当に思いました。


※画像は、クリエイター・Seki / 旅と写真さんの、タイトル「ジブリパークとジブリ展(新潟県立近代美術館)/X100VI」の1葉をかたじけなくしました。手紙に打ち込む姿に惹かれます。Sekiさんに、お礼を申し上げます。