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No.562 白鳥は、かなしからずや?

その一言が、人生を左右するってこと、あるんですね。
昨日の早朝に見たNHKBS「染みる夜汽車 2020年春 特急白鳥号」の再放送に目も耳も心も持って行かれました。
 
主人公のY子さんは、今から半世紀以上前の正月の午前8時30分に、大阪発・青森行きの特急白鳥号(国鉄内部では、「日本海白鳥」と呼ばれており、北陸本線、信越本線、羽越本線、奥羽本線を経由した)に晴れ着姿で乗車していました。山形県余目にある交際中の男性の実家に初めて挨拶に行くためでした。夜の8時には、余目駅に到着する予定だったそうです。
 
Y子さんは、お見合いで大阪の商社に勤める男性と知り合いました。音楽会や美術館に誘ってくれる男性を敬慕し、見合いから2カ月で結婚を約束します。しかし、男性の家族からは「早すぎる」という意見もあったそうです。Y子さんには、焦りもありました。
 
大阪で果物屋を営むY子さんの家庭と、父親が銀行の支店長で彼の兄弟も大学でのエリートということで、大学進学をしなかったY子さんには、釣り合わない家庭環境や、男性の家族からの迎え入れに不安がよぎります。
 
滋賀県の米原駅を過ぎると雪が降り始めました。北陸に入ると吹雪になり、特急列車白鳥号は、新潟県糸魚川駅まで来たところで急停車し、無情のアナウンスが告げられます。
「これ以上は進めません、大阪へ急いで引き返します。」
 
Y子さんは呆然とします。列車内にもざわめきが起きたそうです。
「彼の実家に行けない。家の電話番号も聞いていない。どうしよう。」
ふと、彼女の口から突いて出た言葉が、
「やりきれませんね…。」
でした。その時、隣の席にいた紳士が、こう言ったそうです。
「槍は、切るものではありません。槍は、通すものです。」
 
ピンポイントで胸を刺す一言でした。紳士は、道中、Y子さんから余目に行くいきさつを聴いていたのでしょうか?迷っていたY子さんは、紳士の言葉に「やり通そう!」と決意します。更に、親切な紳士は、彼女に別の路線で山形に行く方法を教えてくれました。
 
Y子さんは彼の実家に、
「遅れますが、必ず行きます。」
と電報を打ちました。大阪に引き返す途中の米原駅で東海道線に乗り換え、8時間かけて東京駅に到着。そして、上野駅から山形行きの列車に飛び乗りました。
 
大阪を出発してから、結局、6本電車を乗り継いで、ようやく余目に着いたのは、3日目の朝のことでした。駅では、彼も家族も待っていたそうです。
「よう来たな。根性あるな。」
 
二人は、その年の3月に結婚しました。そして、「やり通すこと」を大切にしながら、二人は一緒に過ごしてきたそうです。人との出会いが、人生を変えて行く佳例だと思います。状況に身の不運を思って後ろ向きになるのではなく、むしろ、状況を回避させて相応しい前向きな言葉で背中を押した紳士に、「せめてお名前を!」と声を掛けたい気持ちです。
 
邂逅の奇縁とでも言うのでしょうか。紳士の言葉を受け入れたY子さんの素直な心がありました。「白鳥」の鳥言葉は「清らかな心」だそうです。紳士に出逢い、白鳥号に出合い、余目(嫁)に行く事になったY子さんだったのだなあと、朝から感動しました。
 
因みに、「白鳥号」は、国鉄分割民営化に伴い21世紀元年となる2001年3月のダイヤ改正で廃線になってしまったそうです。以後、大阪駅~金沢駅間は「雷鳥」、金沢駅~新潟駅間は「北越」、新潟駅~青森駅間は「いなほ」に系統分割されました。無念のリタイアだったでしょうが、新たな路線の開拓を生んだのです。