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No.1370 秋は来ぬ

一昨夜、二昨夜のことです。
わが家のトイレで「沈思黙考」していたら、枯れるようでいて妙なる口笛のような鳴き音が聴こえてきました。かすれるような、もの悲しい口笛とでも言いましょうか?
「えっ?便所コオロギ?」

ふと、声の主がどんな顔なのか見てみたいと、狭いトイレ内を探しましたが居ません。どうも、トイレの窓の隙間から虫の音だけが聴こえていたようです。夜も9時を過ぎており、辺りは真っ暗なので、その一匹の主役の顔を拝むことは出来ませんでした。

オスしか鳴かないそうですが、喉を鳴らすのではなく、翅の上下左右の「摩擦器」と「ヤスリ器」を擦り合わせて、あんなに美しく郷愁を誘うような音色を奏でるのだそうです。

もっともその鳴き声も一様ではなく「おどし鳴き」、「本鳴き」、「さそい鳴き」なるものがあることを「NHK for school」の「ミクロワールド コオロギ 美しい鳴き声の秘密」のページに学びました。

ところで、その葉を潰すと強い悪臭を放つことから「ヘクソカズラ」なる不名誉な名前を与えられたその花は、『万葉集』でも「クソカヅラ」(屎蘰)とたった1首見えています。

3855「菎莢(ざふけふ)に延(は)ひおほとれる屎葛(くそかづら)絶ゆることなく宮仕へせむ」巻16・高宮王
(カワラフジの木に、這いまつわっているクソカズラよ。その蔓のように、この私もいつまでもしがみついてでも宮仕えがしたいものです。)

宮仕え人として、切なくなるような処世術さえ考えさせられる歌です。しかし、この「ヘクソカズラ」には、その可愛い花から「サオトメバナ」「サオトメカズラ」の別名もあるそうです。なんでもそうでしょうが、良い所の方も見てあげたいものですね。

さて、話題を戻しますと「便所コオロギ」の名称も、彼らにとっては「謹んで返上申したい」意味で「返上コオロギ」です。もっとも、「便所コオロギ」は、いわゆる「コオロギ」なのではなく、「カマドウマ」(姿や体色、飛び跳ねるさまが馬を連想させ、古い日本家屋では竈の周辺によく見られたから)のことだとありました。その鳴き声はコオロギとは違っていました。
 
私の聴いたのは、いわゆる「便所コオロギ」なる本家の「カマドウマ」の鳴き声ではなく、「便所の辺りで鳴いているコオロギ」の意の「便所コオロギ」でした。ややこしや?

それにしても、その美声(美音?)は悲しげではかなげでした。彼は恋の片思いの「誘い鳴き」をしていたのかも知れません。50年前の、我がみずみずしい(?)恋心を、ふと…。ハハハ!(フフフ?)。
 
その後、コオロギ君は杳として姿をくらまし、トイレで鳴き声が聴かれなくなりました。秋の雰囲気が、わが陋屋を包んでいます。


※画像は、クリエイター・20.315さんの、「20.315が管理する開拓地『ネイチャーフィールドX』に繁殖しているコオロギの赤ちゃん」という珍しい1葉をかたじけなくしました。お礼を申し上げます。