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No.1277 プロデューサー

別紙 壮一氏(1941年~)は、元アニメプロデューサーで、『おれは鉄兵』『一球さん』『笑ゥせぇるすまん』だけでなく、『怪物くん』『パーマン』『ドラえもんなど』などの藤子不二雄作品のアニメーションなども数多く手がけられた方です。劇場映画の『ドラえもん』シリーズの多くのプロデューサーも担当されました。
 
その別紙氏が、わが校の60周年記念の折に「大好きドラえもん」と題して講演されたのは、13年前の6月1日のことでした。ダンディーないでたちで、品の良い語りが印象的です。「ドラえもん」のアニメ放送が始まるまでのこと、ドラえもんの印象的なエピソードのことなどを交えながら、「思いやり」について生徒たちに穏やかに話しかけてくれました。
 
中学併設型の中高一貫校となって5年目のことで、本校の中学・高校生約1,100名が、体育館で別紙さんのお話に耳を傾けました。その時のお話の中で、私は初めて、のび太くんが、しずかちゃんと結婚したことを知りました。驚きました!
 
私は「鉄腕アトム」(アニメ、1963年)世代であり、「ドラえもん」(アニメ、1979年~)が放映された頃には20代の半ばを過ぎており、ほとんど知らないままでした。ただ、しずかちゃんと出木杉君ならお似合いかなとは思っていました。でも、違ったのです。
 
映画『のび太の結婚前夜』(1999年公開)で、将来、本当にしずかちゃんと結婚できるか不安になったのび太君は、タイムマシンで、のび太の結婚式の日へ向かいました。しかし、間違えて結婚式の前日に着いてしまいました。しずかちゃんの家に行くと、両親とお別れパーティーを開いていました。
 
しずかちゃんは、パパにお別れの挨拶をしようとしますが、上手く自分の気持ちを伝えることができません。そこで、ドラえもんが取り出したのは「正直電波」という秘密道具でした。電波を浴びた、しずかちゃんは、
「パパ! あたし、およめにいくのやめる!!」
「わたしが行っちゃったらパパさびしくなるでしょ。
これまでずっと甘えたりわがままいったり……。
それなのに私のほうは、パパやママになんにもしてあげられなかった」
 
すると、パパは、しずかちゃんが生まれてからこの方、どれほど幸せだったかを切々と語り、感謝の気持ちを伝えます。しずかちゃんが、
「あたし……不安なの。うまくやっていけるかしら」
と、今のいつわらざる気持ちを正直に伝えました。
 
その時の、別紙さんが話して下さったパパの言葉が沁みるんです。
「やれるとも。
のび太くんを信じなさい。
のび太くんを選んだきみの判断は正しかったと思うよ」
「あの青年は人のしあわせを願い、人の不幸を悲しむことのできる人だ。
それがいちばん人間にとってだいじなことなんだからね。」
「かれなら、まちがいなくきみをしあわせにしてくれると、ぼくは信じているよ」
 
別紙さんは、生徒たちに「人のしあわせを願い、人の不幸を悲しむことのできる」思いやりのある人として豊かな人生を送って欲しいと結びました。あの日から13年が経ちますが、今もその時の強い印象と感動は覚えています。
 
別紙さんは、あの日、私たちの心もプロデュースしてくれました。


※画像は、クリエイター・稲垣純也さんの「静香とのび太」の1葉をかたじけなくしました。いいショットですね。あんな未来があろうとは…。お礼申し上げます。