No.961 こんな邂逅も、楽しい!
映画やTVドラマは、原作を超えられるでしょうか?
作家・山崎豊子(1924年~2013年)さんが、8年の歳月をかけて完成した『大地の子』(全3巻)のテレビドラマ化が日中共同で行われ、終戦の50年目となる1995(平成7)年11月~12月にかけ、NHK70周年記念番組(全7回)として放送されました。
中国大陸で残留孤児となった陸一心(松本勝男)の日本と中国の家族を織り交ぜながら、その波乱万丈の半生を通して、日中の戦後史を壮大なスケールで描いた人間ドラマです。
私は、NHKが放映したそのドラマ『大地の子』を観て感激し、今度は小説を読み、ノーカットでドキュメントの喜怒哀楽のページをめくりながら一層の感動を覚えたのでした。
その昔、遠藤周作の歴史小説『沈黙』(新潮社、1966年初版)を高校時代に読み、映画『沈黙』(篠田正浩監督、1971年製作)を大学生になってから観たのですが、篠田作品は、「大胆なカットと改変で、原作のストーリーそのままの踏襲は避けた。」(映画解説)と言われるように、原作との違いのゆえに、言いようのない物足りなさを感じました。
勿論、原作には原作の、脚本には脚本の主題への意図があり、活字と映像と言う本質的な違いもあるでしょう。その可能性も限界もそれぞれにあるのであって、是非を論ずるのは的外れだろうと思います。それでも、何か原作にこだわっている自分がいました。
さて、学校の図書館から借りたその『大地の子』(文藝春秋、上・中・下、1991年4月15日発行、第1刷)の帯出カードには、教え子のT君の名前がありました。彼は、テレビドラマ化されるより5年前の6月、つまり、出版された年の2か月後には、この本を読破していました。
読書好きの彼らしい先見性ある行いだと思いました。福岡で働いている彼の顔が思い浮かんだのは、彼が高校1年生の時の学級担任だったからです。帯出カードと言う間接的で偶然の出会いでしたが、驚きと楽しみを同時に与えてもらいました。