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No.1352 勇猛な人
もう20年以上も前のことですが、未婚同盟の旗手のような女先生がいました。煩わしい結婚生活をするより、1人で働いたお金を貯めて東南アジアの国々を観光旅行することを大きな楽しみとしていました。
有名な遺跡や寺院を訪れたり、日本では見られない景観に目を細くしたり、美味しい酒で喉を潤したり、名物料理に舌鼓を打ったりしました。結構な健啖家でした。
昔は、長期休暇を利用して旅行を楽しむ余裕もあったようですが、無事帰国後は、女先生のアジア探訪報告会が行われました。当時、海を渡ったのは四国くらいしかなかった私は、彼女の勇気と行動力に恐れ入りました。
ある年の土産に、
「食べてみますか?」
とからかうような、誘うような、興味ありげな目で差し出されたのは、粉々に砕いた食べ物でした。かなり強烈なチーズの匂いです。
私は、いかもの食いではありませんが、これくらいなら平気です。少し大きめの欠片を有り難く押しいただいて口に放り込みました。獣臭とは言いませんが、なかなかワイルドで強烈なチーズの味がしました。
「これ、何のチーズ?」
「ヤクのチーズです!」
とのことでした。
モンゴルから2780kmあまり、はるばる我が胃にも収まるためにやってきてくれたようです。そういわれれば、野草のような、乾いた空気のような、ガツンと来たものは、荒々しい自然の中で逞しく生きるヤギやヤクたちのお乳から絞り出された生き物の味でした。
あれから20数年後の昨日、講座のお仲間が、
「お一つずつ、どうぞ!」
とチョコの小箱を文化教室に持参し皆にプレゼントしてくれました。
「モンゴルのチョコレートなんですけどね!」
その瞬間、ふた昔も前のあの女先生の「ヤクのチーズ」の臭いが鼻の奥に甦りました。
「モンゴルチョコ、いかなる味ぞ?」
ウランバートル市にあるGolden Gobi社のブルーベリーとコケモモのジュース(ペースト状?)の入ったミルクチョコでした。
それは、草原の臭いも、乾いた空気の臭いもない、美味いものでした!へんに甘すぎず、口溶けがよく、私たちが馴染んで食べているチョコと少しも遜色がありません。本当に良質の味わいで、モンゴルのイメージを、いい意味で覆されました。
大分とモンゴルを結ぶ初めてのチャーター便が2023年9月から運航されているそうです。大分県豊後大野市九重町出身の清水武則氏がモンゴルで大使を長年務めた縁で実現したそうです。今年も、三重町の方々とモンゴル訪問・交流が叶ったようです。そのお蔭をいただいて、チョコのお裾分けにあずかった次第です。
近年、モンゴルの首都ウランバートルは、自由経済化の波や数年に一度起こる深刻な雪害などにより、放牧を営むことのできなくなった遊牧民が大量に流入し、急速な都市化が進んでいるそうです。1998年に約65万人だったウランバートル市の人口は、20年後の2018年には約149万人(約2.3倍)にまで増加しました。
「モンゴル」とは12世紀に自称した族名で「勇猛な人」の意味だとか。勇猛な人々は、今世紀、大きく近代化に舵を切ろうとしているようです。
※画像は、クリエイター「なんてね」さんの、「草原の思い出」の1葉をかたじけなくしました。ゲルの室内に興味が持たれます。お礼申し上げます。