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No.1525 ゆかしき雪中花

可憐で清楚な容姿と芳香、水仙は「春を告げる花」とも言われるそうです。その原産地は、遠くスペインや北アフリカなどの地中海だと知って、ヘーボタン乱打です。
 
中国を経由して日本に渡来してきたのでしょうか?しかし、奈良時代の『万葉集』、平安時代の『古今和歌集』や『枕草子』や『源氏物語』、鎌倉時代に編まれた『新古今和歌集』にも登場しないと言われます。
 
スイセンが、日本の文献に初出するのは室町時代の国語辞典『下学集』(かがくしゅう、1444年)だそうです。日常の語彙約 3000語に簡単な説明を加えたもの。その中に、「漢名 水仙華、和名 雪中華」とあるらしいのです。北陸地方では、水仙を「雪中花」とも呼び、正月に飾ると縁起がよいとされているそうですが、その原型はこの辞典にあったのかも?
 
では、どうやって日本にやって来たのか?渡来人が水仙の球根をもたらしたとも考えられますが、ユニークな説もありました。それは、人の手ではなく海流に乗って漂着して野生化したという説でした。
 
その理由は、水仙の日本三大群生地である福井県の越前海岸、千葉県の鋸南町、兵庫県の淡路島や、それ以外にも紀伊半島や伊豆半島などの海岸近くに古くからの群生地が見られることから、長い時間をかけて海を渡って来たというのです。
 
勿論、地中海から流れ着いたとは考えられないので、シルクロードを経て中国や韓国に渡り、その球根が何らかのきっかけで海流に乗って日本の海岸に漂着して野生化したのではないかと考えられています。
 
大量の球根が流れ出さない事には、万に一つも日本にたどり着くことは、難しいと思います。真偽のほどは分かりませんが、「♪名も知らぬ~遠き島より」流れ寄ったのは、椰子の実ばかりではなかったということになるのでしょうか。
 
さて、スイセンの学名「Narcissus」は、ギリシャ神話のナルキッソスのエピソードに由来するそうです。ナルキッソスは、彼を見るすべての人を惹きつけるほどの美貌の持ち主。ところが、彼は水辺に映る自分の顔に見惚れるがあまり、その場を離れることができず、寝食も忘れ痩せ細り、しまいには消えてしまいます。ナルキッソスが消えた後の水辺に咲いた花が、スイセンだったといいます。
 
この話が「ナルシスト」の語源になったことは、広く知られているところです。水仙の学名「ナルキッソス」は、
「池を覗き込むように咲く姿がナルキッソスのようだから」
「ナルキッソスが落ちた場所の近くに水仙が咲いていたから」
などの由来から名付けられたと言います。よくできた神話です。
 
その神話では、盲目の予言者テイレシアースがナルキッソスを占い、
「己を知らないままでいれば、長生きできるであろう」
と意味ありげに予言したそうです。そして、その予言は16年後にナルキッソスが水鏡に映った自分を見た時に当たってしまうのです。
 
団地内のゴミステーションの近所に住む「花咲か爺さん」が耕した三角形の花畑の一角に、「水仙」が見事に咲いていました。画像は、一昨日のその1枚です。そんな縁から本日のコラムとなりました。そういわれれば、身を乗り出しているようにも?
 
「水仙や朝日のあたる庭の隅」
 正岡子規(1867年~1902年)