No.1495 美しい涙
スポーツ大会で、勝って涙し負けて涙する場面に、思わずこちらももらい泣きしてしまうことがあります。
昨日の第44回大阪国際女子マラソンもそうでした。
優勝は、ウォルケネシュ・エデサ(エチオピア)選手で、2時間21分0秒。
2位は、小林香菜(23=大塚製薬)選手で、2時間21分19秒。
3位は、鈴木優花(第一生命グループ)選手で、2時間21分33秒。
ということで、日本人選手は、共に自己新記録だそうです。
今年9月に東京で開催される世界選手権の代表選考会を兼ねているといいます。その参加標準記録の2時間23分30秒を2人とも優に突破しており、大舞台へと大きく前進しました。
ゴールした時の二人の涙は、対照的だったかもしれません。社会人1年生の香菜さんは、これまでの競技人生から、自分でも信じられないと言った驚きと喜びと達成感の嬉し涙を見せました。一方、優香さんは、レース最後の800mで追い抜かれて3位となったことから、疲れ切って、無念の悔し涙となったのではないかと思われました。胸にグッとくる表情でした。
オリンピックで優勝した時の2人の日本人選手を鮮明に覚えておられる方も多いでしょう。
高橋尚子選手(自己ベストは、2001年の2時間19分46秒)は、
2000年のシドニーオリンピックで金メダルを獲得した時の記録が、2時間23分14秒
野口みずき選手(自己ベストは、2005年にベルリンマラソンでの2時間19分12秒)は、
2004年のアテネオリンピックで金メダルを獲得した時の記録が、2時間26分20秒
でした。そのことを思うと、昨日の二人は、既に偉業を成したと言えなくもありません。
もちろん、オリンピックの開催地や時期、コースや地形、湿度や温度、天気や風の影響、走り易さや走りにくさほか、さまざまな条件を考えると同列に時間のみで考えることは性急に過ぎるのででしょう。
その上、世界の女性のフルマラソンの上位選手は、現在
1位 ケニアのルース・チェプンゲティッチ選手の2時間9分56秒(2024シカゴ大会)
2位 エチオピアのティグスト・アセファ選手の2時間11分53秒(2023ベルリン大会)
3位 オランダのシファン・ハッサン選手の2時間13分44秒(2023シカゴ大会)
という「えっ?」と二度見するほどの驚くべき記録を樹立していました。
記録の巨人たちとも言える彼女らと肩を並べてマラソン大会でしのぎを削り合うという、厳しくて過酷な世界に身を置いている日本選手たちに、怪我せぬようにと祈り、心からの敬意と声援を送りたいと思いました。
昨日の小林さんと鈴木さんの涙を見ながら、ふと思い出したのは、ふた昔も前の教え子の一人のことでした。その女生徒は、地方から電車で通学していました。
ある日の朝だったか、学校の廊下のベンチに一人で座って泣いていました。
「どうした?具合でも悪いの?」
と声を掛けると、
「いいえ…。中学時代の私は、体調を崩して学校に通えませんでした。でも、今は学校まで遠いし電車通学なのに、毎日通えるようになりました。そのことが嬉しくて、有り難いと思うから、涙が出るんです。」
16歳の彼女は、そう言ってハンカチを再び目に当てました。
私は、彼女の感性に驚き、その場に立ち会えた偶然に感謝しました。自分の不安に真摯に向き合って生きている彼女のその涙を「美しい」と思いました。私の中で、嫌な物、醜い物が洗い流されるような気さえしました。今は、立派なお母さん、しています。
※画像は、クリエイター・優谷美和(ゆうたにみわ)さんの「イタリア人にはこう聞こえるらしい」というタイトルのマラソン大会の1葉をかたじけなくしました。熱い吐息と高鳴る鼓動が聴こえて来そうです。お礼を申し上げます。