No.531 今でも忘れられない結婚披露宴のスピーチ
大学の後輩女性が結婚することになり、卒業論文のご指導をいただいた恩師と研究会で先輩だった私が5月に行われた披露宴に呼ばれたのは、もう40年以上も前のことです。
どういう家庭で育ったのか、古典文学の愛読者で、言葉遣いが丁寧で、若いのに似合わず品があって、色白で髪の長い、清楚な感じのお嬢さんでした。どこのどんな男が彼女の心を射当てるのかと思っていました。披露宴会場に現れた白馬の王子様は、テレビの画面から飛び出して来そうなくらいのスッキリとした目元の涼しげな二枚目で、見るからに包容力に溢れるお人柄に見えました。少しも御世辞ではないくらいお似合いのカップル(古いか)で、目が高いお二人に恐れ入りました。
新郎の会社の上司が、ひとしきり彼を持ち上げた後、面白いスピーチをしました。
「先ずは、新婦に申し上げます。私は、『嫁』と書いて『亭主関白』と読みます。『女』が『家』に居るから『嫁』なのではありません。家の外に出て、『行ってらっしゃい!』と見送り、『お帰りなさい!』と出迎えるのが『嫁』だと考えるからです。
『あなたー、早く帰って来てねー!』
『あなたー、カミングバック!』
『亭主、カムバック!』
すなわち、
『亭主、関白!』
となるのです。すばらしい『亭主関白』になってください。
次に、新郎にも一言申します。『かかあ天下』になってください。
『うちの妻は素晴らしい!』
『うちの妻は天下一!』
『かかあは、天下一!』
すなわち、
『かかあ天下!』
です。いつまでも仲良く『亭主関白』『かかあ天下』し合ってください。」
会場は笑顔で溢れ、何とも言えない和やかな空気が漂いました。日本でも屈指のセメント会社の上司のお話は、ひな壇で恥ずかしそうにしていた二人の心をぴったりとくっつけ、私の心に太いセメントの言葉の杭を打ち込みました。いまだに忘れないどころか、笑顔で思い出させる名スピーチでした。
結婚披露宴の席で、人生の先輩・先達から気の利いたスピーチを聞くことができるのは楽しみの一つです。それは、人生訓だったり、夫婦の処世術だったり、初めて出逢った人々で緊張した会場の雰囲気を和やかにさせる潤滑油のような言葉だったりします。そんな中、新郎新婦への心のこもった、情愛とジョークに溢れる言葉は、一生の贈り物のような気持ちになります。結婚式や披露宴もままならない昨今の新型コロナ禍でしたが、ここへきて、結婚披露宴の華やぎが戻ってき始めています。会場で笑顔と言葉の花が咲くことを祈るばかりです。