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No.1451 恐るべきジョーク?ウィット?
以前にも紹介したロシアの「アネクドート」(anecdote)とは、奇聞や逸事、秘話、エピソードなどの意味を持つ言葉だそうです。
ソ連時代に、共産党による民衆への弾圧が激しくなるにつれ「アネクドート」は発展したと言われます。自由を奪われた市民たちの指導者や政治家に対する批判精神がアネクドートなのでしょう。
その意味で、ロシアは、スターリンやフルシチョフやブレジネフやコスイギンといった、批判の標的にする大物政治家たちに事欠かなかったわけですが、表面上は従いながらも内面的に屈服することはなかったようです。
あるロシア人ジャーナリストが、「ソ連が残した良き遺産はジョークだけ」と言って笑ったといいます。苦笑いでしょうが、その逆説的な自虐趣味も、強烈な体制批判も、ロシアと言う国や国民性を表しているように思います。
事実ではないとしても、いかにもありそうな潜在的な怖さを感じてしまいます。火の無いところに立つ煙もあるのでしょうか?今日も、そんな中からブラックな笑いをいくつか紹介させてください。
アネクドート1
昔は、政治犯がたくさんシベリアに送られていた。ある時、一人の男が強制収容所に送られてきた。
囚人の一人が
「お前は何年くらったんだ」
と聞くと、その男は
「20年だ。何も悪い事していないのに、20年の刑が宣告された」
と答えた。すると、他の囚人が言った。
「そんなことはあるまい。もし無実なら、10年ですんだはずだ」
アネクドート2
ある時、一人のロシア人がローマ法王に謁見して、質問した。
「法王様、天国とはどのような所ですか?」。
法王は目をつぶり、少し考えてから、こう答えた。
「そう、天国では、人びとは一枚の布をまとい、クツを履かず、リンゴをかじって暮らしている」。
すると、ロシア人は言った。
「それなら、わが国とおんなじだ!」
アネクドート3
ある時、一人のチェコ人が一人のスロバキア人に最新ニュースを伝えた。
「今度、わが国に海軍省ができるそうだ」。
すると、スロバキア人が言った。
「どうしてだ。わが国の周りには海がないのに、なぜ海軍省を作るんだ」。
チェコ人が答えた
「じゃあ、なぜソ連に文化省があるんだ」。
アネクドート4
「水爆の父」と言われたサハロフ博士は平和を唱え、反体制派と見なされて、自宅の電話は常にKGBに盗聴されていた。
サハロフ夫人が友達の夫人と電話で世間話をしていた時のこと。長電話になったので、盗聴していたKGBの捜査官は、とうとうガマンできなくなった。そしてサハロフ夫人の受話器から、いきなり男の声が聞こえてきた。
「いいかげんに、長電話をやめたらどうだ!」
ロシアが「ジョーク大国」と言われる一端を垣間見る思いですが、アイロニーのスパイスを利かせた「アネクドート」は、やはり、指導者への民衆の怒りや揶揄や貶めるような感情が、気持ち良いほど込められています。
反骨精神が生み出した文化は、新たな主役の登場を手ぐすね引いて待ち、寒い冬もスクスクと育っているのでしょう。モスクワの現在の気温は、-6℃だそうです。
※画像は、クリエイター・Lakshmiさんの1葉をかたじけなくしました。その説明に、「ロシアのシンボルともいえる『ポクロフスキー大聖堂(聖バシーリー聖堂 )』。満月とのコラボ写真が撮れました。」とありました。まるで、おとぎの国のような世界です。お礼申し上げます。