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No.1366 応援の拍手?

私の田舎は山に沿った農村で、ほとんどの家で労働力として牛を飼っていました。牛を飼えば糞尿に蠅がむらがり、牛の血を吸いにアブがやってきます。わが家の赤毛の「吉福号」もせわしなく尻尾を振り回してハエやアブを追い払いました。家のあちこちの部屋には「ハエ取り紙」が吊るされ、粘着式の紙には、黒くなるくらいにハエがかかりました。
 
うちの松宇爺ちゃんの「凄ワザ」は、片手でハエでもアブでも「ひょい!」と掴み取ってしまう事でした。ハエ(アブ)の後ろから右手を広げて近づき、サッと横に動かした瞬間、獲物は爺ちゃんの右の掌に納まっていました。その集中力と俊敏さは、みごとでした。
 
我が家には「ハエ叩き」なる文明の利器もありました。棕櫚の葉で作ったものや、細かい格子状の穴の開いたビニール製や、細い針金を編んだ金属製のものもありましたが、我々は、両手を広げ、挟み撃ちして退治したものです。そういえば、今からふた昔も前のこんな思い出話があります。
 
九州高校弁論大会では、ハイレベルな弁論の続出に、聴衆の長崎県の高校生たちも舌を巻いていました。休憩時間に男子トイレに入ったら、生徒同士で
「あんな話し方が出来てすげーよなあ。俺たちより一つ二つ若いのに!」
としきりに感心しています。確かに、人を唸らせる弁論内容でした。

私は、数年間九州大会への生徒弁士の参加にはご無沙汰していたので、知己を得ていた他県の先生方と久闊を叙しました。九州大会出場常連校の先生方は、相変わらず元気が良く、福岡の先生たちと虫談議をしていた時に、面白い話を聞きました。

ある外国人が、英語で日本の高校生たちにした話だそうです。
「雌と雄のハエが結婚して、赤ちゃんが生まれました。両親は、こどもに一所懸命飛び方を教えました。
ある日、両親が外出したので、こどもは、たった一人(一匹?)、家の中で飛ぶ練習をしたそうです。帰って来た両親が、子どもに聴きました。
『私たちがいない間、何をしてたの?』
『ぼく、飛ぶ練習していたよ。』
『上手になった?』
『うん、すごく上達したよ。だって、人間たちが、みんな拍手してくれたもん。』
『…。』」
という良くできたジョークです。日本の落語の小咄にもありそうなネタです。子どもの頃の私も、ハエをかなりパチパチ拍手しました。

現在、故郷の農家は耕運機を用い、牛を飼う家は一軒もなくなりました。


※画像は、クリエイター・Nemoto Kentaroさんの「竹富島に旅行した際に撮影したもの」の1葉をかたじけなくしました。お礼を申し上げます。