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No.815 雨垂れを穿つ!

これも30年以上前のお話です。
3月のある雨の日の放課後のことでした。学校の玄関入り口で野球部員がバットを素振りしていました。普段なら、魔球のように曲がるピンポン玉やタイミングを計るためにバドミントンのシャトルを打ち返す練習などをするのですが、この日は違っていました。

選手数人が、バットを振っている相手は、雨垂れでした。その雫に向かって狙いを定め神経を集中させてバットを振っているのです。漫画のようなシーンなのですが、真剣な顔つきです。私など、一生バットを振り続けても当たることはあるまいと思いました。

「当たるかい?」
と選手に声を掛けたら、
「はい!」
と言って頷きましたが、容易な業ではないでしょう。何十回、いや何百回も振るうちに、心が練られ、的が絞られ、心技体が符合するか整うかしてジャストミートするのでしょう。

巨人軍の王貞治選手が「一本足打法」を完成させるまでに天井から吊り下げた糸の先に付けた紙を、日本刀を振って切る練習をしたという話を思い出しました。 投手のタイミングをはかり、的を絞り込む精神集中法とでもいうのでしょうか。そんな事を思わせました。
 
「雨垂れ石を穿つ」とか言いますが、雨垂れを穿つ練習法は、野球の漫画家や指導者からの学びかも知れませんが、大変ユニークで哲学的でさえあるように思いました。全国の高校球児たちも飽くなき情熱と創意工夫で、日々大きな夢を追いかけていることでしょう。
 
2023年の第95回記念選抜高校野球大会は、3月18日(土)に開幕するそうです。全国から36校が出場して熱戦を繰り広げます。我が大分県からは、大分商業高等学校が選ばれました。「士魂商才」「質実剛健」を謳う伝統校である野球健児の活躍を祈ります。
 
「高校野球勝ち歌大暑はらひけり」
 水原秋桜子(1892年~1981年)


※画像は、クリエイター・たち吉さんの、タイトル「ノーゲームとか。」をかたじけなくしました。お礼申します。