No.697 「夢に見るよじゃ惚れよがうすい 真に惚れたら眠られぬ」
都々逸(どどいつ)は、七七七五の26文字(音)から成る文芸です。男女の仲や機微・情愛を唄ったものが多く、即興であるところに冴えや機知が生まれ、いなせなお兄さんやお姐さん、しゃれた大人の男性や女性の粋を感じさせるところが魅力であり持ち味です。目からうろこの、目から涙の言葉の応酬に、やられてしまう私です。
私の鼻の頭を赤くする歌の数々をあげてみました。その作者名をうかつにして知りませんが、日本人の心の共有財産のような唄ばかりです。みなさんの、お気に召すやら?召さぬやら?
「嫌なお方の親切よりも 好いたお方の無理が良い」
「逢うたその日の心になって 逢わぬその日も暮らしたい」
「顔見りゃ苦労を忘れるような 人がありゃこそ苦労する」
「君は野に咲くあざみの花よ 見ればやさしや寄れば刺す」
「これほど惚れたる素振りをするに あんな悟りの悪い人」
「添うて苦労は覚悟だけれど 添わぬ先からこの苦労」
「たとえ姑が鬼でも蛇でも ぬしを育てた親じゃもの」
「玉の輿より味噌漉し持って つとめ嬉しい共稼ぎ」
「積もる思いにいつしか門の 雪が隠した下駄の跡」
「泣いた拍子に覚めたが悔しい 夢と知ったら泣かぬのに」
「ぬしと私は玉子の仲よ わたしゃ白身できみを抱く」
「人の口には戸は立てながら 門を細めに開けて待つ」
「一人笑うて暮らそうよりも 二人涙で暮らしたい」
「不二の雪さえとけるというに 心ひとつがとけぬとは」
「惚れた数からふられた数を 引けば女房が残るだけ」
「惚れさせ上手なあなたのくせに あきらめさせるの下手な方」
「枕出せとはつれない言葉 そばにある膝知りながら」
「胸にあるだけ言わせておくれ 主の言いわけあとで聞く」
「もしもこのままこがれて死ねば こわくないよに化けて出る」
「わしとおまえは羽織の紐よ 固く結んで胸に置く」
初代都々逸坊扇歌(1804年~1852年)は、その後、数人に受け継がれています。7代目・都々逸坊扇歌 は、3代目冨士松ぎん蝶(1890年~1985年)が1952年(昭和27年)に自称したそうですが、正式な襲名ではなかったために特例で関係者のみ許可されたという話がウィキペディアに紹介されていました。こうして200年間、艶なる男と女の情念が静かに燃えて、心の底をあぶりだしているのです。イイね、都々逸!
「旅人の都々逸うたふ日永哉」
正岡子規(1867年~1902年)
※画像は、クリエイター・henachocoさんの、「生活の中、レンズを向けたもの2」をかたじけなくしました。鮮やかな画像と素材に「ほ」です。お礼申し上げます。