No.799 心の中ではじけたものは
「一月往ぬる、二月逃げる、三月去る」
などと月日が早く過ぎてしまうことを言うようです。2月はまた、28日しかありませんから余計に短く感じられます。しかし、私は、種先生から頂戴した数々の忘れられない教えに、心温まり、身の引き締まる思いでこの月を過ごさせていただきました。
そんなことが出来たのは、種友明先生の教え子であった同僚の首藤千鶴子先生から『種友明遺稿集 春暁』(種友明遺稿集刊行会、平成8年2月1日発行)という遺稿集を貸していただいたおかげです。その恩恵に浴したことを記してお礼申します。
さて種先生の遺稿集の跋には「ご挨拶に代えて」というご家族連名の文章があります。これまた心にしみるものです。種先生に関するご紹介の最終回となりますが、ご家族から見た御父上の人となりの全文をご一読いただければ幸甚です。
「ご挨拶に代えて
肝臓を患って飲めもしないのに、お酒の席に顔を出すような父でありました。毎年正月には教え子の皆様のお時間を拝借して、自ら酒宴を設けたりもしておりました。『まんざら下戸でもなかっただろうに、随分と自虐的な』と思っておりましたが、どうやらその席での会話を楽しみにしていたようです。『言葉』に拘り続けた何とも父らしいエピソードではないでしょうか。
文墨に対する拘りも尋常ならざるものでしたが、著書はございませんでした。時間ができたら満足のいく形にしてと思ってはいたのでしょうが、夜半の嵐が思いの外強く桜も徒となってしまいました。父が生前果たせなかった著書の出版を、皆様のご厚意によりここに遺稿集『春暁』として成し得ましたことを、父に成り代わりましてお礼申し上げます。本当に有り難うございました。ワープロのドキュメントや大分合同新聞連載の『灯』などから抜粋いたしましたもので取り留めもございませんが、皆様がこの本を手に取られました折に種友明が同時代を生きておりましたことを思い出して頂ければ幸いです。」
親子そろって人の心をみごとにとらえられます。親鸞聖人が9歳で得度した時の歌、
「明日ありと思ふ心のあだ桜夜半に嵐の吹かぬものかは」
を踏まえた人生の無常さ儚さに亡き人をしのぶ心がいや増します。種先生は、そのような人物でありました。先生を慕うご家族は、そのような方々でありました。私の中で、小さな種がいくつか弾けた忘れ難い2月です。
私は、この3日間を信州の安曇野で過ごしました。遠くの山々、連山の雪は九州に見られない景色でした。御地の銘酒をいただき、孫の1歳の誕生を祝いました。
「きさらぎの 信濃や鯉と 松葉酒」
福田蓼汀(1905年~1988年)
※画像は、クリエイター・りろりろさんの、タイトル「安曇野の風景」をかたじけなくしました。お礼申します。