No.239 さ・ら・ば、せ・い・しゅん?
その人が、いつの間にか人々に名前を知られるようになったのは、ラジオの番組を通じてではなかったかと思います。ソフトなムードで爽やかさが魅力の大人の歌いぶり。銀行員として多忙な業務に携わりながらも青春を回顧したり、子供のような瑞々しい心で言葉を紡ぎ出したりするシンガーソングライターです。ファーストコンサートは、32歳の時だったそうです。
その人の名は小椋佳。彼の名曲の一つ「さらば青春」は、1971年(昭和46年)のリリースですが、大学生の頃にラジオから聞こえてくる小椋佳の歌声に心癒されていたことを懐かしく想い出します。
学校に奉職する身となったある日のこと、玄関口で、帰ろうとしていた二人の高校生に声をかけました。 「さらば、青春!」
中学時代の教え子であった彼らに、めいっぱいの笑顔で言ったつもりでしたが、意外にも、くだんの教え子たちは私のバイバイコールに戸惑ったのか、名曲をご存じなかったのか、
「さ・ら・ば、せ・い・しゅん?」
とモールス信号並みに繰り返して、顔を見合わせました。
「『さらば、オジサン!』と本当は切り返したかったんじゃろ?」
と畳みかけて私が言うと、「ガハハ!」と握り拳が入るほど大口を開けて笑い爽やかに通り過ぎて行きました。ものには、程度というものがあります。素直すぎて、ちょっぴり悲しく思われました。
「素直が一番!」を奨励している私ですが、「嘘」でも大目にみたい時もあります。