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No.564 ツバメのヒナが看取って欲しかったその人は

朝から気温が上昇し、日差しのきつかった昨日のことです。
1時間目が終わったところで、愛猫家で知られるちい先生が、ツバメのヒナをたなごころにくるむようにして教員室に戻ってきました。
「死んじゃうかもしれません。もう動けなくって、口も開けてくれないんです。」
 
ほかの先生方との会話のやりとりから、生徒が、どこかで見つけて拾ってきたものを動物好きの先生に委ねたものらしく思われました。ちい先生は、我が子を愛おしむようにヒナの体を頬に当て、
「頑張ってね!死んじゃだめよ。どうしたらいいかな?」
と不安そうに声を掛けています。放課後、獣医に連れて行こうとの心づもりのようでした。
 
猫やら蛇やらカラスやら熱いアスファルトやら、まだ飛べないツバメのヒナにとっては、巣から落ちたが最後、天敵だらけの世界です。ネットには、
 「巣立ち成功率は50%で、雛の1年生存率は10%です。あまりに低いのでビックリです。」(ツバメの巣立ち-Ttrekkさんの日記-ヤマレコ)
とありましたが、巣から落ちたヒナの生存率は、限りなく0に近いだろうと思われました。
 
2時間目が終わって私が教員室に戻ると、
「ダメでした。死んでしまいました。」
と今にも泣きそうにしています。
「ごめんね、助けてあげられなくて。」
ちい先生は、もう誰も目に入っていない様子で、そう言って白い布で優しく包みました。そして、白い紙コップに納めました。
 
「それ、どうしますか?」
と尋ねたら、
「家に持って帰って庭に埋めてやります。」
と答えました。
 
私は、その言葉で、すべてを諒解しました。
このツバメのヒナは、あの時点では、どんな名医も救えないくらい衰弱しており、命は風前の灯だったに違いありません。ヒナは、ちい先生の情愛に触れ、励ましの熱い息を感じ、温かい掌の中で軟らかく優しく包まれ、眠るような最期を迎えられたのでしょう。私は、この子は、ちい先生に最期を看取ってもらう為に生まれて来たのだろうと思いました。そして、健気にも最後の力を振り絞ってちい先生にたどり着き、力尽きたのです。