ファミ箏のオンラインコンサート vol.2「天穂のサクナヒメ」裏話③
裏話というかオンラインコンサートなどでPAに乗せて箏の音を届ける際の技術的なことについてのメモみたいなお話などです。思いの外長くなってしまったので何回かに分けてお送りします。
まずは8月15日にご視聴いただいた皆様、どうもありがとうございました!まだ観てない方はアーカイブを残しておりますのでぜひ観てくださいね!
以上、話の枕の定型文でした。また、オンラインコンサートより各曲を再編集した動画も少しづつあげております。こちらもぜひご視聴ください!
さて③は「蕾 ーつぼみー」からですね。①、②のお話もお確認くださいませ。
① https://note.com/okimasakazushi/n/n151c85776e3c
② https://note.com/okimasakazushi/n/n6e2744390f3d
オンラインコンサートのチャット欄で作曲者ご本人の大嶋さんより先に「静」を作ってその後「蕾」を作った、という内容のコメントをいただきましたが、これはゲームをやられた方には言うまでもないですが「静」と「蕾」で共通しているのが箏の存在ですね。
箏の口唱歌で言えば「シャン・テン・シャンシャンテン・」と歌う段物を思わせるリズムの活用が箏を弾いてる方にとってグッとくるポイントではないでしょうか。冬の夜から昼、昼から夜のBGMの切り替わりがとても印象的で再現というか繋がるように組み立てたい2曲です。
というわけでまずは動画を撮る際に作った絵コンテです。
絵コンテ内でQ出しをすると書いてますが、沖政がiPhoneの灯りをつけて合図するというもので、撮影は被写体以外の場所は暗くなるので光を利用した合図というのが視認性が強くわかりやすいかなと思ってます。
なお、「桜」セクションの方では大賀くんの独奏に聞き惚れてしまい合図を出すのを忘れました。大賀くんが最後苦しそうな顔をしているのは息が持たず本当に苦しいのだと思いますゴメンナサイ。
ライティングとカメラアングルとを利用して展開していくというのはもっと色々可能性があるかなと思っています。生の、例えば2.5次元の舞台を観た時も、なるほどな〜面白いな〜と思ったものがあったもので、もちろんコンサートは音楽が主役ではあるので演出過多はマイナスにもなると思いますが、部分的に視覚に刺激を与えて緊張を作ったりするのも面白そうですね。
「蕾」の話に戻りますが、後半になると三味線が抜け、十七絃も白玉、全音符ばかりで細かい動きをせず、箏の「シャン・テン・シャンシャンテン・」と尺八のみになるという構成です。構成の狙い自体は大嶋さんからのアレンジアルバムのメールインタビューで述べたのですが
https://perfectvanity.at.webry.info/202105/article_kanade16.html
さらに最後の尺八の部分についてお話を追加しますと、吉岡くんが吹いているのが「ムライキ」という技法。神永くんが吹いているのが「コロコロ」。
大賀くんについてはその後の「蕾」と「桜」を挟むインターバルの独奏で色々と尺八の技法を使って「ヤナト田植唄」をアレンジしたものを吹いてもらいました。
尺八には「尺八古典本曲」という尺八楽の元々の曲があります。簡単に尺八の歴史を説明しますと、尺八は昔は楽器ではなく法器、仏教に用いる宗教的楽器でした。虚無僧が尺八を吹いているイメージが有名ですね。読経の代わりに宗教音楽として尺八を吹くものです。
そんな尺八古典本曲風にアレンジという具合です。
サクナヒメアレンジアルバムのパッケージに、田右衛門が尺八を吹いている絵がありますが、田右衛門が夜、1人で納屋でかつて過ごした麓の世を想い尺八を吹く事もあるでしょう、という感じの二次創作です。
尺八というのは現代は色々、穴が6つや7つなど増えたものがありますが、元々は5つの穴が空いている楽器です。この5つの穴の音を普通に出すと、1オクターブ内に5つしか音を出せない形になります。一尺八寸のいわゆる1番オーソドックスな尺八の5つの穴それぞれの音がこちらになります。
ところが実際はもっと多様な音が尺八から出ております。5つの穴の塞ぎ方を半分だけにしたりというテクニックに加え、吹き口の角度を変える技法が重要になってきます。「メリカリ」と呼ばれる技法ですね。尺八奏者が顔の角度を色々と変えて吹き口の角度をコントロールするものですが、この尺八ソロに於いて特に「メリ」という顎を引くような動作が確認できます。「メリハリ」という言葉がありますがそれの語源が「メリカリ」だとも言われてますね。「メリ」は顎を引いて結果、音高が下がります。逆に「カリ」は顎を出して音高が上がります。首を支点に頭部は色々と動かせますが、その動きで音色を色々と変えられるのも尺八の奏法の大きな特徴ですね。もちろん、吹き口に安定して息が当たらないと音にならないわけで、尺八の上達に「首振り3年コロ8年」という言葉があり、習得に時間を要することが伺い知れます。ちなみにコロというのは先述した「コロコロ」の事です。
自分は嗜む程度しか尺八が出来ませんが、尺八において「メリ」は重要なファクターのように思います。音高のみならず音色の明暗の違いが出てくる感じですね。上記した尺八の穴を普通に塞いだ場合に出る5音は民謡音階になっていて、ヤナト田植唄も民謡音階、そのままメロディを奏でるだけなら尺八で大変吹きやすい曲です。その旋律に「メリ」を交えて単旋律の中に陰影をつけて立体感を出したり、色々と仕込んでみました。陰旋法で進行していき、最後のフレーズで陽旋法、元の田植唄になる具合です。
しかし最近は「メルカリ」というものが大変に流行ってしまい、「メリカリ 尺八」で検索をかけると「メルカリ 尺八」の結果ばかりが出てきてしまい困ったものです笑
裏話①では三味線、②では箏、③では主に尺八に焦点を当てましたが、天穂のサクナヒメに限らずビデオゲームなどの触れやすいエンターテイメントからリアルな和楽器に興味を持ってもらえたら嬉しいですし、逆に今回のコンサートからサクナヒメに興味を持ってもらえたりなど相互に作用が出る形を作って行けるとよいなと思ってます。それこそ和楽器に限らずですが、コンテンツの背負う文化的潮流を遡れるような形ですね。
楽器の説明をしたり音楽の説明をするのも、意味が分かると聴こえ方、解釈が変わってきたりするもので、知る事は重要だと思ってます。知らなくても感じることが出来る根源的なものもありますが、知る事でより情報量の多い伝達が可能になります。
音は空気の振動ですが、その振動の重ね方、順番に意味をもたせて音楽が出来上がります。それを紙に表すために記号化し楽譜が出来ました。かなり乱暴な言い方ではありますが。
言葉というものも同様ですね、日本語で言えば50文字の記号、英語で言えばアルファベット26文字の記号の組み合わせによって意味を定義します。全く知らない言語の音声を聴いてもただの音の羅列でしかなく、意味がわかるとその意味を解釈する聴き方に変わるもので、知るという事で聴こえ方が変わるのです。
これは音楽に於いても同じであり、心地よい音、心地よい響きという根源的な快への感情の先に音楽的な記号を知ることで広がる世界がありますよ、という事で、併せて日本語と英語と言語の違いがあるように日本音楽には日本音楽の文脈を知るとわかる世界があります。とにかくそういうキッカケを作るのが自分にとって大事なワークとも思っております。
話が広がってきてしまいましたね、今回はこの辺で…最後までお読みいただきありがとうございました!
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