196.三題噺「やわらかい、ライダー、甘い匂い」
僕たち二年生は修学旅行明けで休みだ。
前から約束をしていた通り、僕は後輩ちゃんと遊んでいた。
一年生の後輩ちゃんが何故休みなのか気になるところだけど……。
「ズル休みしちゃいました。先輩と早く会いたくて。寂しかったんですよ……?」
そんな顔で言われたら何も言えない。
「後輩ちゃんはいけない子なんだね」
かろうじて出たのはそんな言葉だった。
「はい。知りませんでした? 私、先輩が思ってるより、いけない子なんです」
後輩ちゃんは、えへっと笑って舌を出す。
その仕草にハートが撃ち抜かれ、僕は胸を押さえた。
ショッピングモールへ足を運ぶと、屋外スケート場があった。
「先輩! 滑りましょうよ!」
「後輩ちゃん滑れるの?」
「ちっちゃな頃は天才ライダーと持て囃された私なら余裕です!」
ライダーって、何かの乗り手のことを言うんじゃないかな。大丈夫かな。
そんなことを考えながら一緒にスケートリンクに立つ。
「ちゃんとサポートしてくださいね……?」
僕の正面で後輩ちゃんは産まれたての子鹿のように足をプルプルさせていた。
余程転ぶのが怖いのか手を繋いでいる。
しかも指を絡める恋人繋ぎだ。
「は、離しちゃ、ヤですよ?」
恥ずかしいけど、ぎゅっと握られて睨まれてしまったから我慢だ。
「わかった。ちゃんとリードするよ」
とはいえ、僕は後輩ちゃんに両手を握られているせいで慣れない後ろ向きの滑り。
周囲への意識が疎かになっていたせいで、背中に誰かがドンっとぶつかった。
「きゃっ!」
後輩ちゃんは滑って体制を崩し、僕の方へと倒れてきた。
どうにか受け止めることができたけど……。
「…………」
後輩ちゃんは真っ赤な顔をして唇を両手で抑え、僕を睨んだ。
「ご、ごめん。事故だからお互い忘れよう」
思い出すのはやわらかい感触。ほっぺに湿りけ。
後輩ちゃんは僕に抱きついたままだ。
甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
「……れないで」
「え?」
「忘れないでください」
どうして……?
確認しようとしたら、後輩ちゃんは僕の胸に顔を埋めた。
「私、先輩のこと……き、だから」
後輩ちゃんの言葉はくぐもってよく聞こえなかった。
聞き返す暇も無く後輩ちゃんが慌てて離れたから、僕たちは仲良く一緒に転んだ。
作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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