意味形態のずれ―自己啓発・組織運営に効く文化人類学入門#6
第3章 意味・形態論(続)
文化を二重構造でとらえる考え方を「意味・形態論」といいます。
形態には必ず意味があります。意味のない形態は存在しません。
意味は、その形態が、その文化の中でどのように機能しているかによって決まります。
意味・形態論は文化人類学のキモです。
意味と形態は一対一ではない
さて、問題はここからです。
形態には必ず意味があるのですが、形態と意味は必ずしも一対一ではありません。
一つの形態に複数の意味が存在する場合もあれば、複数の形態に一つの意味が存在することもあります。
1つの意味に複数の形態が存在する場合。
たとえば夫が妻に、愛を表現しようとしたとします。ここでは、愛は意味です。それでは、どういう形態が可能でしょうか。
花束を買ってくる。アクセサリーをプレゼントする。「愛してるよ」と言う。たくさんあります。
1つの形態に複数の意味が存在する場合。
たとえば、キスは、わたしたちにとっては愛や性の表現になりますが、アフリカでは恐怖になります。キスをするのは猿だからだそうです。
お金を与える行為は、わたしたちにとっては慈善ですが、アフリカでは欲深な金持ちの行為という意味になります。
病院を建てる行為は、わたしたちにとっては援助の行為です。しかし、アフリカの部族に入って行って病院を建てれば、困惑ととられます。医療は個人的なものだからだそうです。
これらは、一つの形態が複数の意味を持つ例です。
意味と形態のマッチング
このように、意味と形態の組み合わせには複数の可能性があります。
1番自然な形で形態と意味が合っている状態を
「意味・形態のマッチング」
といいます。
意味と形態が本来の状態からずれてしまっている状態を
「意味・形態のミスマッチング」
といいます。
ミスマッチングはわたしたちの日常でも起きます。
「~べき」を大切にする宗教では、この現象がしばしば見られます。
ヒント 組織は「意味と形態のミスマッチング」が起きていないか。
ヒント 意味を感じ取る感性が大切。見えないところを見る。
形態はどうでもいいのではない
意味と形態がずれてしまうと、組織はギクシャクします。
基本的には、意味付けができない形態は自然淘汰されます。
ですから、ある程度そのままにしておけば、意味と形態のミスマッチングは解消されます。
しかし、なかなか解消されない場合もあります。
そのときには、形態をやめてしまえばよいのですが、少し注意が必要です。
形態は無造作に扱うとギクシャクします。形態を変えるときには、慎重に行うほうがうまく行きます。
意味を失いながら保持されてきた形態であっても、メンバーの中には、実は保持されてきただけの理由があるからです。
マッチング回復理論
組織などが行き詰まったときには、意味・形態のミスマッチングが起きています。
意味と形態をもう一度マッチングさせるために、以下の2つの方法があります。
1 形態を変えること。
2 形態を変えずに意味を取り戻すこと。
これを
「マッチング回復理論」
と言います。
ここでは、1の「形態を変えること」について考えます。
人間は見た目に弱いので、形態を保持しようと考えがちですが、実は形態は意味を表現したものに過ぎません。
ですから、窮状を打開しようと思ったら、形態を変える必要がありますし、形態は変えてよいものです。
ただし、丁寧な扱いが必要です。次のステップを踏みます。
1 形態の背後にある意味を理解する。
2 理解した意味を、新しい形態に表現し直す。
ここで大切なのは、意味を理解することです。
形態を変えるのが怖いのは、意味がわからないからです。
形態の背後にある意味がわかれば、そしてそれを上手に共有できれば、不適応を起こしている形態は自然に変わって行きます。
ヒント 意味がわかれば形態は変えられる!
理論的にはこれでうまく行きます。
ただしここで大切なことがあります。
トップ・ダウンだけでこれをやろうとするとなかなかうまく行きません。
現場がどう見ているのかも考慮に入れる必要があります。
現場が、このような形態は意味がないので変えたいと思っていることがわかれば、それほどギクシャクせずに新しい形態に移行できます。
ここでも「受け手本位」の考え方は基本です。
続く ―次回は、コミュニケーションについて書きます。
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