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「書を持って、家に居よう」 〜いま、考える時間を過ごすということ〜

書は捨てられず、町へも出れず

寺山修司さんは言いました、『書を捨てよ、町へ出よう』と。言ったというより、書いたという方が正しいかもしれないけれど。

今、この時間は本を捨てようにもブックオフはやってないし、そもそも町に出るなと言われているし、どうしようもないじゃないの、という状況です。

この『書を捨てよ、町へ出よう』は、解説の内容をお借りすると

平均化された人生を諦めと共に生き、骨の髄まで慣習の虜となってしまう前に、まずはすぐさま荷物をまとめ家を出よ、実行あるのみ-。
日常からの「冒険」のすすめをまとめた、クールな挑発の書!

とあります。

時代が違うので(昭和五十年初版発行)、今の時代に必ずしもマッチするかといえば、決してそんなこともありませんが、考えられることはたくさんありそうです。

解放されない日常をどう過ごすか

今この時間は、当たり前だったことが当たり前でなくなり、日常が非日常になりました。「外に出ないでください」なんて、映画のようなことが、実際に起きています。

寺山修司さん的には、日常を飛び出すことで新しいものが見えてくる、ということをメッセージで伝えたいのだと思います。それが今は、日常そのものが日常を飛び越えた時間になっている。つまり、今は日々を過ごすことで何かに気付ける、考えられる時間や機会を得ているんじゃないかと思うんです。

四畳半世界の中で
延々と繰り返される自問自答の末に
僕たちは何を見つけるのか

部屋から出られないこの状況。どこか森見登美彦さんの『四畳半神話体系』のようだな、と思いました。

『四畳半神話体系』がどのようなお話かといえば…
日々、数々の選択をし過ごしながら多くの後悔をする中で、主人公の「私」はある日、自分の住む四畳半から出られなくなってしまいます。扉を開け、窓を開け、壁を天井を壊しても、そこに続くのは似たような四畳半の部屋の数々。次第に出ることを諦め、己(とジョニー)と対話しながら、「私」は考えるのです。

これまでに選び続けた選択が果たして正しかったのか。どこで道を踏み外し、今の状況に陥ったのか。

このシーンを思い出したんです。なんでしょうか。ネガティブにならずとも、今は自分を見つめ直すための時間を与えられたんじゃないのかな、なんて。

樋口師匠
「我々という存在を規定するのは、我々がもつ可能性ではなく。我々がもつ不可能性である」
占い婆
「好機はいつでも、あなたの目の前にぶらさがってございます」

(アニメ版ブックレットより)

今の社会は、面倒臭いことも技術によって簡単に解決できてしまいます。でもそのおかげで、必要のないことや無駄なことに気付けていないことも多いかもしれません。

逆に、本当は欲しいもの、求めていたものがすぐ近くにあるのに、見失ってしまっていたこともあるはずです。

できないことが生まれたことで、できることに目が向くようになったんだと思います。

考える時間を過ごそう、家の中で。

お医者さんや専門家の方々が頑張っている中、僕はとにかく待つことしかできません。この時間をネガティブに捉えるのではなくて、考える時間ができた、と考えれば良いんじゃないかなぁ、と。

今まで当たり前に過ごしていたことも振り返ってみると、必要なかったり、意外とストレスを感じていたり。何も考えずに触れていたものが貴重だったり、そうでなかったり。

外の世界にはたくさんの発見があるかもしれないけれど、これまでその刺激が多すぎて、もっと身近なものに気付けなかったように思います。

え?そんなことない?部屋は退屈?

あら。それでは、試しに本棚を探ってみると良いかもしれません。
買ったけど読んでいない本とか、内容を忘れちゃった本とか。あるんじゃないですか?

僕はワンサカありました。この時間がなければ気付かずに、また時間が過ぎていったかもしれません。

本じゃなくてもいいと思います。録画していた番組とか、映画とか、日々の家事や料理でも。何気なく触れていたものも意識して考えることで、少しずつ何かに気付いて自分に返ってくる気がします。

それは、もしかしたら外に出て、何か刺激を得ることよりも、もっと自分自身にとって、軸となるような大切なことなのかもしれません。

そして、今この間に自分自身と向き合うことができれば、外に飛び出した時に得られる刺激や発見は今まで以上に多いんじゃないか。そんな風に思います。

頑張っている人たちに尊敬をしながら。
今は、待つとき。考えるとき。

書を持って、家に居よう。



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大久保忠尚 :twitter

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大久保 忠尚
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