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#22 ベトナム最高峰に登った話

コロナ禍を経て、実に10年ぶりに訪れたベトナム北部のサパ。

とにかくあらゆるものが発展していて、成熟しきった日本で暮らしている10年と、途上国と言われていたアジアの10年では、とにかくスピード感が全然違うんだなと思わされる再訪でした。


ベトナム北部への旅

サパはベトナム北部のラオカイ省、中国との国境近くにある町です。その土地柄、山岳エリアに暮らす少数民族が住民の多くを占め、モン族、ザオ族、タイ族…… モン族をとっても赤モン族、黒モン族、花モン族とさらに細かく派生しており、とにかく多種多様な民族が暮らしているエリアになります。

僕は10年前、このエリアのバックハーという村にどうしても行ってみたくて訪れたことがあります。

今もやっているのだと思いますが、バックハーでは「日曜日限定の少数民族大集合マーケット」が開催されており、そこに伝説の民族、花モン族の皆さまも参加されてくるという情報があったのです。

花モン族というのは、この辺りに暮らす「モン族」から派生した民族で、その伝統衣装と刺繍の精緻さ、美しさは一見の価値あり、見る者すべてを虜にし、女子へのお土産としても大変秀逸なものだと言われています。

ちなみに僕も花モン族の刺繡の施されたポーチや小物入れを買って帰ってきたはずなのですが、誰にも渡すことなく今もタンスの肥やしになっているのはここだけの話です。

そもそもの絶対数が少ないからか、あまり大衆に迎合しないからか、近場のサパの町にいても黒モン族など他のモン族はよく目にすることはあっても、花モン族に出会うことはまずありません。はぐれメタルのごときレアキャラなのです。そして、そんな花モン族の皆さんが必ずやってくると言われているのがこのサンデーマーケットなのですね。

例えるならば、普段TV出演をほとんどしない、M-1チャンピオンの令和ロマンが必ず参加してくれる民放番組のようなものです。違うか。

そんな花モン族が確実にやってくるマーケットとあれば、行かない理由はありませんが、しかしとにかくこのバックハーという村が遠いのです。

ベトナム北部最大の町ハノイは皆さんご存知だと思いますが、ハノイのセントラル駅から夜行列車に10時間乗り、翌朝ラオカイの駅に到着。そこからサパまで乗り合いバスで1時間、さらにサパから同じくバスで3時間かけて山間の村へ…… というアクセスの悪さ。これが最短アクセス。南アルプスの登山口かよ。

恐らくハノイからローカルバスを乗り継いでいく手段もあったとは思うのですが、それ着くまでに一体何日かかるの??といったようなものであり、日本のウルトラハイパー社畜を生業としている僕からすると、そんな時間ありませんやんと思ったのを覚えています。

ベトナムモビリティ事情

と、前置きが長くなりましたが、今回10年ぶりに訪れたサパまでは、もはやハノイから長距離バス一択!5時間位でOffice to Officeでサクッとサパの中心地に到達。昼寝して起きたら到着。しかもインターネットで予約して、電子決済で、スマホ内の電子チケットでオールオーケー。

バスも「寝っ転がれるキャビン型寝台バス」というとんでも設計のバスで、バスに飛んでいるWi-Fiでネットをだらだら眺めながらウトウトしている間にいつのまにか着いているうえに、サパ行きの長距離バスも一日に何本も走っている状況。こんなラクでいいんですか……。

ハノイのバスオフィスまでの移動だって、泊まっていたホテルからGrabという個人配車アプリを使ってサクッと到達(Uberのアジア版みたいなものです)。スマホ内で勝手に決済。あのアジア特有の、トゥクトゥクドライバーと交渉して移動して下りるときに支払で揉めて……みたいな面倒ごと一切なし。

たった10年でこんなに変わる??
日本のモビリティ事情何にも変わってないよ??

日本ではタクシー業界の安全性が~、雇用が~、バスドライバーの不足が~ とかうんたらかんたらやって結果何も変わっていない数年の間に、ベトナムでは、物凄い勢いで道路のインフラと、オンラインサービスと、バスネットワークが構築されていたのです。

そしてサパの町の変化にも衝撃を受けました。
10年前のサパは、古き良きアジアの山間の村といった様相でした。

10年後のサパがこちらです。

ちょw ギラギラww
カジノかよw

町は、避暑地としての地の利とアウトドアアクティビティを擁した観光資源、そしてハノイからの直行バス開通というインフラを引っ提げ、欧米人観光客をふんだんに呼び込める一大観光地になっていたのでした。

ベトナムのクラフトビールも美味しいし、バーもオシャレ……。


ハッ、都内の夜遊びと雰囲気変わらんやんけ!

と、まぁこういうところだけを切り取ればこんな感じですが、もちろん裏に入れば当時もあったローカルエリアや屋台街のようなものもあります。変わっていない部分は変わっていませんが、表立ったところの変化には大変驚かされました。

ベトナム最高峰ファンシーパン山

さて、10年ぶりに訪れたサパには強い目的がありました。それは、ベトナム最高峰ファンシーパン山に登ること。標高は実に3,143m。

実は、この数年の間に僕は旅好きが派生してすっかり登山好きになってしまい、暇を見つけては週末に東京近郊の山々から日本中の山々まで足を延ばす日々を送っています。

登山のYouTubeなんてものも運営を始めてしまいました。

コロナもある程度収束してきた頃、ちょっと海外の山に登ってみるなんてのもアリなんじゃないかと思っていました。一般的にはここでスイスやイタリアといったところが頭に浮かぶものだと思いますが、もともと長めの休みとあればバックパック背負ってアジアやら中東やらを旅するのが好きだった僕は、何となく東南アジアでどっか良さそうな山は無いのかなと考えます。

近場のアジアの最高峰を調べていくと、ベトナムの最高峰ファンシーパン山は、ベトナムのみならずインドシナ半島最高峰でもあり、現地でもトレッキングカルチャーが盛ん、しかもかつて行ったことがあるサパにある山、ということで、これは丁度いいなと思いサパに赴いた次第です。

当然この山は10年前もそこにあったわけですが、登山に全く興味が無かったため、ベトナム最高峰の山がサパにあるというのも今回初めて知りました。


さて、サパの町からファンシーパン山に登るには、あらかじめ山岳ツアーに申し込み、登山口でチームを作ってから登ることになります。

この様々な国の旅行者たちが一緒くたに集められて観光地に向かうというスタイルは日本ではあまり馴染みがありませんが、海外ではごく普通のスタイルです。僕は途中の山小屋で一泊しがてら翌朝山頂で日の出を目指すツアーに申し込んだのですが、シンガポール国立大に通う大学生チームと一緒になりました。若さって眩しい。

会話の中で、もう40歳になると告げると大層驚かれたのですが、「全然見えない!若いね~」と言ってくれたのは、本当にそう思ってくれていたのか、「こいつこの年で独りで何しに来てんねん」と思われていたか、間違いなく後者ですありがとうございます。

まぁ山行道中通してずっと仲良くしてくれていたので、それだけでも良しとしましょう。

ファンシーパン登山

当たり前といえば当たり前なのですが、ベトナムの山々は、日本の山々とは全く違う風景でした。普段歩いている奥多摩のように杉林が一生続きそうな感じではなく、僕らがジャングルと聞いてイメージするような、シダ系植物に低木が拡がる景観で、緯度が変わると標高は同じでもだいぶ世界観が違うんだなと思いました。

また、日本ではたまに鹿やカモシカといった動物に出会うことがありますが、こちらで出会うの水牛です(笑)。

どこか牧歌的ではありますが、しかしここは3,000m級の高山。登りのキツさは日本のそれと全く変わらず、厳しい急登が何度も連続する稜線歩きなどでは、チームシンガポールは全員もれなく死にそうになっていました。

初日はあまり天気も良くなく、全体的に雲がかって風も強めの一日。それでも海外の山を歩いているんだという非現実感と、普段の山とは全く違う風景で辛さを感じることはありません。

海外での山小屋泊も初めてのことで、山小屋とはいっても日本の民宿のような山小屋とは違い、避難小屋+α のような雰囲気。常駐しているスタッフはいませんが、ガイドたちが入れ代わり立ち代わりで管理を確認し、食事も全てポーターが全員分運んで用意もしてくれます。小屋に常備している寝袋も支給してくれますので、自分に必要な最低限の荷物で登ることができるのはツアーならでは。

夕飯もちょっとした軽食くらいかと思っていたら、家族で円卓を囲むかのような大量のおかずが出てきて驚きましたし、とても美味しかったんですよね。頑張って登ってきたあとのごはんだったこともありますが、ちゃんと味付けも良かったです。多分レストランの星付きシェフ一緒に登ってきてた。

はー、美味しかった。
さて寝るか。 ん?


窓、ビニールやんけ!

寝袋支給はありがたかったのですが、地味に寒かったです。

朝焼けの山頂

翌朝、というか深夜3時半にたたき起こされた僕らは、日の出を目指すためにファンシーパン山頂に登ります。

山頂直下の山小屋から山頂までは意外と距離があり、時間にして1時間以上、階段地獄の急坂をひたすら登ったところにあります。慣れない土地で真っ暗な中登る寝起きの急登は非常に厳しいものがあり、チームシンガポールは全員もれなく死にそうになっていました。

しかし、それまでの厳しい急坂を越えた先にある山頂の大展望ポイント、山々の向こうから雲海を照らしながら登ってくる朝焼けからは、強く心に訴えかけてくる説得力がありました。

ここは日本ではない遠い外国の地

3千メートルを超える山の上

冷えた身体を温めてくれる太陽の強い日差し

朝焼けのオレンジと空の青のグラデーション

何て美しい風景なんだ。
言葉に出来ない感情を抱え、僕は今いる場所からふと後ろを振り返りました……

大仏!!!!
風情がない!!!!

そう、なんとこのファンシーパン山、山頂に大規模なレストランやお土産屋さんを完備した仏教系エンターテイメント施設が建造され、それどころか麓のサパから山頂までロープウェイがかかっているという、トンデモ山として存在しているのです。

想像してみて下さい。富士山の五合目駐車場から山頂までロープウェイでいけるみたいなもんです。

ロープウェイがあるというのにわざわざ登ってくるのは酔狂なハイカーだけ。2日間もかけてヒーヒー言いながら登る登山アプローチに対して、ロープウェイだとものの30分程度で山頂まで到達してしまいます。文明ってしゅごいね……。

とはいえ、早朝の時間はまだロープウェイが稼働していないため、この早朝の時間帯にファンシーパンを堪能できるのはハイカーだけの特権でもあります。

風情がないとはいえど、標高は3,143mです。穂高連峰や南アルプスといった山々と同じだけの高さを誇る山ですので、周囲の景観は圧巻と言わざるを得ませんでし、

オイ!
施設のことは言うな!!

しかし何でこんなことしちゃうんでしょうね。
と思うのは、ハイカー視点なんでしょうね。このサパからロープウェイで手軽にファンシーパン山頂に来れるというのは、ベトナム北部を代表する観光手段なわけで、連日多くの観光客で賑わっています。登山だけでしかアプローチできないのと、観光客皆が遍くアプローチできるのでは、その経済効果の格差は想像するに及びません。

複雑な思いは持ちつつも、ハイカーとして山頂までやってきて、朝焼けを見ることができたこと自体は事実であり、達成感もまた大きいものがありますね。

やったね! 
頑張ったね!!

というわけで、日も昇れば観光客も登ってくるその前に、僕らは下山します。

下山もまた数時間かかる苦行。しかし我はハイカー。文句言わず足で下るのである。



↓ベトナム3部作


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