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マーライオン映画


 アカデミー賞授賞式も近づいて来たので、ノミネート作品の感想からなるべく手短にメモをするつもりが結局長くなってしまいました。読んで下さったら嬉しいです。

 さて、まずはデイミアン・チャゼル監督「バビロン」から。サイレントからトーキーに移行する時期の無法地帯だったハリウッドを、道徳の乱れた都古代バビロンになぞらえテンポよく描く3時間。冒頭の乱痴気パーティーやマーライオン並みの嘔吐シーンなどは目を背けたくなるかもしれませんが、私は前作より監督の映画愛が感じられて好きでした。

 前半はチャゼル版「カメラを止めるな!」で、コンプライアンスなんて微塵もないメチャクチャな撮影現場にも奇跡のように美しい瞬間が訪れるのはまさに映画の魔法。後半はてっきりマーゴット・ロビー演じるネリーがハリウッドでのしあがっていく話かと思いきや、映画という「重要で長く続くもの」の一部になりたかった青年の栄光と挫折の物語でした。ラストの映画館のシーンは映画ファンでなくとも胸が熱くなるし、映画史の中で革命となった作品群のたたみかけは必見。

 次はリューベン・オストルンド監督「逆転のトライアングル」です。いけすかないブルジョワが酷い目に遭う作風が相変わらずで最高。こちらは船酔いからのマーライオンシーンがたくさんあるので、カンヌでよく受け入れられたなと思いました。冒頭のバレンシアガとH &Mの比較から、カップルの奢る奢らない問題、豪華客船の乗客たちとクルー、無人島での覇権争いまで様々な階級意識が描かれていてラストは「パラサイト」を彷彿とさせました。口では「人類みな平等」などど言っていても、一度染み付いてしまった階級意識はなかなか消せないもの。過去作品と比べてエンタメ寄りになっているので、嘔吐シーンが大丈夫ならぜひご覧ください。

 次はパク・チャヌク監督「別れる決心」です。得意のバイオレンスや性描写がほとんどなく、大人の少し風変わりな愛の物語でした。
 王道のサスペンスや悪女を描くと見せかけて、几帳面で優秀な刑事が少しずつ「崩壊」してゆく様子、韓国語と中国語の微妙なズレ、まるで霧に包まれたかのような曖昧な関係性が一味も二味も違う。直接「愛している」と言わなくてもこれも愛、あれも愛、たぶん愛、きっと愛。食事のシーンも印象的で、高級そうなお寿司や韓国人が作る中華風チャーハンなど韓国の刑事ものなのに全くチャジャンミョンが登場しないのも興味深かったです。
 
 ここまでちゃんと読んでくださったあなたに幸あれ。最後はネットフリックスで観た「西部戦線異状なし」です。原作を子供の時に読んで衝撃を受けたのですが、映像で観ると戦争の無意味さと虚しさがより強く伝わってきました。戦争映画は誰も幸せにならないから正直観るのが苦しい。でも人間はすぐ忘れてしまう愚かな生き物だから、こういう作品は繰り返し作られるべきなんだと思います。フランスの上層部が悪く描かれていたりとか多少偏りはあるけれど、当事国であるドイツによる製作はやはり意味があるので観てみて欲しいです。

 見出し画像はドーバーストリートマーケットで買ったコムデギャルソンシャツのいちごTシャツとWEST FALLのいちごソックスです。どんだけいちご好きなんだよ・・・と心の中でツッコミながらレジに向かいました。
 あとはエブエブこと「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」「フェイブルマンズ」だけは観ておかねば。