ビジネス視点で『ポケポケ』を徹底考察してみた
はじめまして、Sun* Business Designerのおかゆです。Sun* Advent Calendar 2024、25日目の記事を担当します。
突然ですが「ビジネスデザイナー」と聞いて、どのような仕事か想像がつきますか?私自身、友人や家族に「どんな仕事してるの?」と聞かれて答えに困ることがよくあります。
そこで今回は、私がビジネスデザイナーとして「普段考えていること」をお伝えするために、2024年後期に大きな話題を呼んだ『Pokémon Trading Card Game Pocket(ポケポケ)』を題材に考察してみようと思いました。ファンとしての愛も交えつつ、ビジネス視点でその魅力や戦略を語っていきます。
なお、公表されている情報を元に、私自身の個人的な考察も含んでいますのでご理解ください。
ちなみに、この記事を書いている2024年12月20日現在、私はポケポケLv.32、生涯獲得カード数2,200枚です。対戦メインで経験値を上げているのですが、500戦以上バトルをして、運営から与えられているステップアップバトル条件を100個達成している状態で、毎日欠かさずアプリを開いて分析して(遊んで)います。
こんな人に読んでほしい
- ポケポケが好き
- ポケモンが好き
- ビジネスについて気軽に学びたい
- Sun*のビジネスデザイナーについて知りたい
『ポケポケ』ってどんなゲーム?
『ポケポケ』は、2024年10月30日に株式会社ポケモンがリリースしたスマホアプリ『Pokémon Trading Card Game Pocket』の愛称です。
ポケモンカードを手軽に「収集」して「対戦」を楽しめるゲームで、リリース直後から大きな反響を呼んでいます。
事前登録者数:700万人
約1.5ヶ月のダウンロード数:6,000万
初動1週間の収益:1,200万ドル(約18億円)
2016年にリリースされたポケモンGOの初年度の収益は1億4,300万ドルなので、このままの勢いでいけばこれを優に超える数字です。
無課金でも十分楽しめる点や、カードの「収集」をメイン機能としている点が多くのユーザーを惹きつけていると考えています。
かく言う私も、これまでスマホゲームアプリにはほとんど課金してこなかったのですが、ポケポケは月額課金をするようになりました。元々ポケモンカードを購入していたことでハードルが低くなっていたことが主な要因ですが、それ以外にも要因はあります。
『ポケポケ』でポケモンカードプレイヤーが受けた衝撃
『ポケポケ』がリリースされる以前の2020年頃から、私はポケモンカードにハマっていました。
小学生の頃に親しんだポケモンへの懐かしさから、ポケモンカードを収集し、デッキを組んで遊ぶようになりました。しかし、対戦相手探しやプレイ環境のハードルが高いことに悩まされていました。
そんな中で、私は以下の感情が日に日に増していました。
もっと気軽にポケモンカードがしたい
離れた場所からでも友だちとバトルしたい
レアカードでもバトルで使用したい(劣化を恐れて使用していない)
これらをすべて叶えてくれたのが、『ポケポケ』でした。
『ポケポケ』のリリース後、その操作性やデザイン、ゲームにおける仕組みや購買意欲を上げるグッズの販売等、書ききれないくらいの衝撃を受けたことは前提で、今回は少し視座を上げてビジネス視点から以下の3点に絞って言及したいと思います。
ユーザー体験向上に繋がるアプリの事前登録
行動心理に基づく「収集」と「対戦」の持続性
企業理念に基づくリアルとデジタルの融合
1.ユーザー体験向上に繋がるアプリの事前登録
『ポケポケ』について最初の情報が出たのは2024年の始め頃だったのですが、その当時はまだ「ポケカのアプリ」としての発表のみで、詳細はわかりませんでした。その後、リリース日と共に事前登録の案内があり「ずいぶん先なのにもう告知するんだな」と思った記憶があります。
ただ、先に述べた通り、私にとっては待ち望んでいたアプリだったので、迷うことなく事前登録をして配信の日を待ちました。
事前登録したことも忘れていた頃、『ポケポケ』のダウンロード完了通知が届きました。その通知に気付いた時にはアプリのダウンロードが完了しているーーつまり、アプリストアで該当サービスを探し出し、ダウンロードボタンを押して完了を待つという面倒な過程を踏まずにプレイできるのです。
この時点で私は「素晴らしいユーザー体験だな」と感じると同時に、事前登録の意義を肌で感じていました。事前登録時点では「リリースすれば必ずダウンロードするし、別に今しておく必要もないんだけど、ポケカは好きだしやっておくか。」くらいの気持ちだったのが、いざその時になると「配信日忘れてたから連絡来てありがたい!しかも気付いたらダウンロードが終わってるからすぐプレイできる!最高!」と、ポジティブな気持ちでサービスの利用に踏み切れるのです。このサービスへの好感度と満足度が高まったことは言うまでもありません。
サービスそのものだけではなく、サービスを始めるまでの体験設計が綿密に考えられているーーそう感じた瞬間でした。(そしてこの記事を書くにあたって気付いたのですが、10月31日リリース予定としていたものを10月30日にリリースしています。これが計算されたものであるなら、あまりにも戦略的すぎる……🤦🏻♀️)
2.行動心理に基づく「収集」と「対戦」の持続性
巧みなユーザー体験があっても、一過性ではビジネスとして成り立ちません。重要なのはその持続性です。
『ポケポケ』は、以下の戦略で持続的なユーザー獲得が可能だと考えます。
- ライトユーザー向け:気軽な収集機能で新規ユーザー層を取り込む
- ヘビーユーザー向け:独自の対戦機能で深い楽しみを提供する
それぞれのユーザーの行動心理を深く理解し、サービス設計に反映されている点もとても興味深いです。
収集機能は「無料で手軽に」できる点が、より多くの新規ユーザー層を取り込んでことに加え、カードゲームにおける最大の楽しみである「希少性の高いカードを集める」ことが収集欲を刺激しています。レアカードや期間限定カードの導入があることで「もっと良い引きを体験したい」「このカードが手に入るのは今だけ」と言う期待感を生み、リピートやエンゲージメントを維持しています。
対戦機能は『ポケポケ』独自のルールが採用されており、ポケモンカード以上に運要素が重要な対戦設計になっています。そのため、カードの組み合わせを考える戦略性と、引き運によるスリルがプレイ中の高い集中状態を生み出しています。運要素が強いゲーム設計は、初心者でも勝利する可能性があり、年齢やスキルに関係なく平等な体験を提供します。この設計は「誰でも挑戦できる」と言う心理的安全性を高めています。
さらに、収集機能にはパック開封だけでなく、他のプレイヤーが開封したものをシェアしてもらえるゲットチャレンジというものも存在します。また、対戦機能は世界中のプレイヤーと言語の壁を超えて対戦することができます。これらは全てデジタルだからこそできた体験設計であり、ポケモンカードゲームとしての新たな価値を生み出しています。
3.企業理念に基づくリアルとデジタルの融合
ところで皆さんは、株式会社ポケモンの企業理念をご存知ですか?
いかがでしょう?
私もこの記事を書くにあたって初めて認識したのですが、『ポケポケ』はこの企業理念を見事に体現していると思いませんか?
物理的なカードゲームの魅力をデジタル空間に移行するだけでなく、リアルとデジタルの相互作用によって新たな価値を提供していますし、カードが自動的に翻訳されるという機能は文化的・言語的なバリアを下げ、グローバルなつながりが活性化しています。
これまでの様々なポケモンサービスを振り返ってみても、この企業理念に沿って作られていることに共感と納得しかありません。
『ポケポケ』のVDS作ってみた
『ポケポケ』は、単なるスマホゲームとしての枠を超え、ビジネスデザインの視点から多くの示唆を与えてくれました。このアプリが築き上げたビジネスモデルを、Sun*とグループ会社のNEWhで開発し、業務で活用している事業構想フレームワークであるバリューデザイン・シンタックス®(Value Design Syntax®)でまとめてみました。
まとめ
ビジネスデザイナーとして、『ポケポケ』の事例は「成功するプロダクトとは何か」を改めて考えさせられるものでした。単に優れた機能を提供するだけでなく、ユーザー体験の起点から持続的なエンゲージメント、さらには企業理念との一貫性に至るまで、包括的に設計されたサービスだからこそ人々に愛されるのだなと感じました。
ビジネスデザイナーであることを意識してこの記事を書いていますが、こうした視点は他のプロダクトやサービスに対して常に持っており、新たな価値創出のヒントを日常から得ています。そういったことを考えることが普段から好きなのもありますが、何より新しい価値はわくわくします。こういった素敵なプロダクトから学び、私自身も同じように世の中をわくわくさせるものを生み出すことを目指しています。
さいごに
冒頭で以下のようなことを書いているのですが、「それ以外の要因ってなんだったんだ?」と思われている方もいるかもしれないので最後に触れておきます。
もう1つの要因は友人(スマホゲーム課金を厭わない人)の以下の言葉でした。
確かに、それだけの価値があることを消費者側が示せば、サービスはもっと良くなるし、自分ももっと楽しめるようになります。当たり前の視点が抜け落ちていたことに気付きました。今後もその気持ちで『ポケポケ』をプレイしていきたいと思います。
今年も残りわずかですが、まだ触ったことのない方はぜひ『ポケポケ』で遊んでみてください!
そしてこのような素敵なサービスを作り上げてくださったすべての皆様に感謝して本記事を終えたいと思います。
ありがとうございました!
さて、Sun* Advent Calendar 2024はいかがだったでしょうか?
バラエティに富んだ記事で、Sun*メンバーの職種の幅広さを感じていただけたのではないかと思います!私も他職種の頭の中を知ることができて嬉しかったです。そして私自身、仕事以外で頭の中を文章で表現する機会は少ないので、良い機会になりました。
2025年も素敵な仲間たちと共に、より良い価値創造に励んでいきたいです。
おわり