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仕事で疲弊した夫にかける言葉なんて、なくていいのだ

夫の帰りが遅い。

この数ヶ月、帰宅が23時を超える日が大半を占めるほど、残業が続いている。仕事で受けたストレスを抱えたまま帰宅することも多くなった。

それだけ長い時間仕事に拘束されているのだから、当たり前にイライラするだろうし、なんて言ったって30代の働き盛りは、20代の頃とは違い、責任やプレッシャーもうんと増える。

普段は温厚な夫が、ムスッとした表情で言葉数が少ない。上司や取引先に無茶を言われながら仕事をしているのも聞いているし、後輩の相談に乗るためにわざわざ飲み会を開いたりしているのも知っている。
「いい人」の役回りをする夫が損をしている気がして、いつか心がポキっと折れないか心配になる。そうやってメンタルを病んできた人をたくさん見てきたから。

とはいえ、私だって仕事のストレスがないわけではない。相談相手もおらず1人でもやもやイライラすることだってある。それでも仕事が終わったら洗濯機を回したり、夕ご飯をつくったり、平日の家事は10割私がこなしてる。



秋風が心地よくなったあの日の夜も、いつも通り仕事を終わらせた私は、食事をつくり、洗濯物をたたみ、トイレ掃除を済ませていた。
なんとか仕事と家事を終わらせてホッとしていると、夫がまたしてもムスッとして帰ってきた。声をかけても、不機嫌。作っておいたご飯を食べても、不機嫌。そして食器も片付けず、ソファにゴロン。無言でスマホをぽちぽちーー。

こっちの方が不機嫌になりそうだった。
なんでそんな顔されなきゃいけないんだ。なんでこっちがこんなに気を使わないといけないんだ、男ってそんなに賢いのか?

ただ、決して私に対してムスッとしているわけじゃないし、ギリギリの中で踏ん張ってくれているのは重々分かっている。だから、そんな風に腹が立ってしまう自分の心の狭さにも嫌気がさして、負の空気が部屋に流れる。


なんて声をかけてあげたら喜ぶんだろうーー。


自分の無力さと、夫への心配と、なんともいえない不安・もやもや感。
考えれば考えるほどどうすれば良いか分からなくなってきて、こっちが泣きそうになってきた。

もう嫌だ、そう吐き捨てそうになったとき、夫が「ハグして」と言ってきた。

何を突然、どうしたんだ?と思いつつ、大きな背中にそっと手を回す。


ごっつい首。汗くさい頭。あったかい身体。
今日もこの身体は、家族のために社会と戦ってくれたんだな。

夫をハグしてるあいだ、溜まりに溜まっていた夫へのイライラだとか、自分への自己嫌悪だとか、不安感だとか、そういうもの全てがスーーッと消えていくように思った。

そして、こんなに考え込んでいることが、だんだんと馬鹿らしくなってきた。


私たちは、夫婦であり家族であると同時に、他人だ。
相手がいることで解決できることもあれば、自分で乗り越えなければならない課題だってある。そして、そういう課題は、あまり干渉されたくないことが多い。

そんなとき、相手には必要以上の言葉なんていらない。いつも通りの生活を送って、相手を見守り、そっとハグしあうだけで、大きな力になる。
きれいごとのように聞こえるかもしれないけれど、私は本気でそう思っている。


夫婦には、言葉で解決できないこともある。
そんな経験をして、また一つ、私たちは夫婦になれた気がした。


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