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不確定日記(夏の細切れ)


劇場の一階出口は緩いスロープで敷かれたアラベスク模様の赤い絨毯は足音を吸収する。私たちは高揚しているが、声はひそやかだ。誰かの発した「ひゃ」という音が面白くて、息ができないほど笑った。振り向くと、低いほうには裏口の引き戸が見え、自転車が通っていく。

 夢で確かに大笑いしていたが、私が実際声を出していたかどうかはわからない。

 することは多かった。ここ数日、グループ展の搬入や、家で料理をする仕事をして出たり入ったり荷物を運んだりが多く、とにかくものが散らかっている。すべてを片付けるのは無理なので、することを選ばねばならない。昨日は大雨だったが今日は晴れていたので、まずシーツを洗い、寝床に迫る勢いで積み上がった衣類の整理とだいぶ遅い衣替えをすることにした。私の夏の衣類は黄色や紫や水色、緑、ピンク。冬物はおおむねモノトーンで、シーツは白。薄くて派手なグループにアイロンをかけ、黒くて重いのは畳んでしまった。

 プランターのプチトマトはふたつほど赤く色づいた。育てているものに変化があると誰かに報告したくなるが、写真を撮るだけにした。

 昼食はとうもろこしときゅうりと水茄子を刻んで、ちりめんじゃこ、白胡麻、天かす混ぜて醤油と酢で和えたものをごはんに乗せて食べる。夏服は、夏野菜につられているのかもしれない。

 他のことをしている間も、体が重いから大きい銭湯に行って休憩室で本でも読もうか、と思うが、思っただけだった。

 夜、風呂で、髪を洗って、そのあと顔と体を洗おう、と思うと、洗う手順や、石鹸を手に持って泡立てる場面が目の前に浮かび、それを眺める。その時点で行為が完了したと勘違いして、しばらくぼんやりしていた。銭湯には行かなくてよかった。

そんな奇特な