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母を捨てる

私は親の顔色をいつも伺っている子どもだった。

小学生の頃から成績優秀で、習っていたバドミントンもそこそこの成績を収めた。

母は「どうやったらあんな子に育つの?と聞かれたよ」と嬉しそうだった。

私はいつも、母の期待に応えたかった。

子どもにとって、親は絶対だ。
私は親に認められるために完璧でいなきゃいけないと思っていた。

母はよく、父や祖母の愚痴を私と姉に話した。
「お父さんはこんなにひどい人なの」
「私は婆ちゃんに小さい頃、よそに預けられたの」

「姉妹のような親子だね」と他人からよく言われた。
思春期過ぎてからは、母はよく相談事を私にした。
再婚相手の恋愛相談、お金のこと、家のこと、祖母の介護のこと。
自分自身の体調が優れない時は、心配して世話をしてくれるのを期待していた。

私は、他人の感情に共感しすぎてしまう。自他の境界線が曖昧になりがちで、他人の痛みを自分のことのように感じる。

特に、遺伝子を受け継いだ親に対して、その意識が強い。

今思うと、私は母親のメンタルケアを担っていた。
それが子どもの頃から今も続いていることに、ようやく気付いたのだ。

母は私に「ここまで育ててあげた」「再婚相手がいたからあなたの学費を出せた」「里帰り出産させてあげた」と言った。
私には、「こんだけ親にしてもらったのだから、親にとって理想的でいい娘でいなければならない。感謝を行動と言葉で伝えなければならない」と思っていた。

姉は、私と同じ双極性障害で、今の私よりも症状はひどいと思う。
実家で母と母の再婚相手の世話になって暮らしている。働いてはないが、社会復帰のために就労支援に通っている。

母はよく、私に姉のことで辛い胸の内を電話で話してきた。
私もまた、何かあったら母に話を聞いてほしくてよく電話をかけていた。

母が毎回姉のことで悩んでいるので、私は毎回「お姉ちゃんも体調が良くなってきているし、自分で生活させてはどうか。もう35歳なんだから、なんでも身の回りやお金の世話をする必要はないのではないか」といった話をするが、母は愚痴を言うだけで行動に移すことはない。

母は耳が痛い話をされると、私を責める。
「あんたはお姉ちゃんと一緒だ」と言った。

私が元夫と結婚している時、借金するほどお金がなかったので、母に会いに行く交通費を出してもらっていた。母はそのことを言っていた。

私は昔、親にそうやってお金を出してもらっていたので、自分で何でも払えるようになった今は、母の日や誕生日にお祝いを送ったり、里帰りさせてもらった時は手紙で感謝を伝えていたが、母にとってそれらは無かったことになっていた。

私が一番躁鬱がひどかった時、母は私に「自分でなんとかしなさい」と言った。
昔から姉は「手のかかる子」で、私は「なんでも自分でやる子」だったからというのはあると思う。

私は周りの手を借りながら離婚や借金や短期での離職転職を繰り返して挫折しながらも、今はこうして優しい夫と可愛い息子と何不自由なく幸せに暮らしている。
母と姉が共依存で苦しんでるのを見ると、あの時、私は母に突き放されて本当に良かったのだ。

当時働けなくて母に借りていたお金も、とっくの昔に完済している。昨年の里帰り出産の時の費用もお祝い金と相殺という形にしてもらった。
しかし母は、今養っている姉のお金のことよりも、私を短大に出した学費のことで私を責めてきた。もう10年以上も前のお金だ。

自分が親になった今思うのは、自分の子どもに自分のメンタルケアをさせたり、養育のために支払ったお金のことで不満を言うのはおかしいのではないか?

私こそ、もう家庭を持って幸せに暮らしているのに、遠方に住む母親のことをいつも気にかけていると言うと聞こえはいいが、親に精神的に依存しているのではないか?

母とは離れて暮らして10年近く経つ。
それなのにまだ、私は母親の前で「いい子」であろうとしてしまう。

しかも自分の自分勝手な努力を母に否定されるので、激昂して結局母を傷つけてしまっている。

もう、やめてもいいんじゃないか。
私はもっと自分の幸せを優先して考えて、自分の人生を生きていいのではないか。

参観日に母にたまたま来てもらえなくて、家の前で号泣してた小さな女の子はもう今はいないのだ。

母と姉の問題は、私の問題ではない。
私が今一番大切にすべきは、夫と息子だ。

私は正直、母といるととても疲れる。「私は可哀想。つらい。」を前面に押し付けられるからだ。

孫を見せなきゃ親不孝だと家に呼んだりしていたが、自分がしんどいのなら無理しなくていいのではないか。

還暦を迎えた母が、精神的にすごく幼く感じる。私はもう大人になったのだ。親は絶対じゃないのだ。ということをようやく理解した。

私は最近、夫の実家近くに引っ越してきた。

環境も治安も便利もよく、いい街だ。
子育て支援が充実しているため、こちらで新しい人間関係も出来た。
今までのママ友とも遊ぶ約束をしたり、週末に家族で出かけたり、時々夫に息子をお願いして1人で出かけたり、充実した毎日を過ごしている。

今ある幸せを大切にしよう。

今まで育ててくれてありがとう。感謝の気持ちを込めて、ようやく精神的にも自分の親から旅立つのだ。

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