月光()。
外観にフライングバットレスの梁、内観に尖頭アーチのリヴヴォールドが造った高い天井、縦に長い石壁にはいくつもの窓が並び、そのバラ窓にはステンドグラスがはめ込まれている。ゴシック建築を象徴する聖堂には陽光が差し、さながら石の森といった様式美だった。
その祈りに満ちた柔らかな空間が、彼女には許されていない。存在する自由は夜の時のみ。闇が包んだ石の森は一転して、少女を閉じ込める墓場のようだった。月明かりに照らされた長い銀髪、生気を感じない陶磁のような白い肌、喪服を思わせる黒いドレス、儚さの中で、目に宿る強さだけが異彩を放っていた。
諦めてはいない…けれど、私は誰だ…
月明かりの先、窓の先に、何があるのだ
知らないようで、知っている…
私は、この窓の先の世界にいたはずだ
それなのに、また、どうしてここにいる…
また………それは誰の記憶だ…
私は…何人目だ……
私は…何度目だ……
ふと、気が付く
もう、声すら出せないのか…
忌々しい月光よ
昼の歓喜を一変させた孤独な聖堂よ
私を縛るすべてのものよ
諦めてなるものか
このまま終わってなるものか
やがて、肌の感覚は消えよう
この目すら失せるだろう
そして、また繰り返すのだ
なら、いっそ、今、この目をくれてやる
閉じたまぶたに月が射し、声なき声が響いてくる
「トレーナーさ~ん、ごっこ遊びもいいですけど、ちゃんと帰って来てくださいねぇ~、来年には、ウマ娘シンデレラグレイのアニメも始まりますよ~、私、スーパークリークも出ますから、ちゃんと見て下さいねぇ~約束、ですよぉ」
そっと目を開ける
しゃべれないはずだ
ずっと、おしゃぶりを咥えていた(ばかやろう)
わかる、わかるぞ
あの人が、ママだ
さぁ、行こう、あの人の所へ
さぁ、行こう、ガラガラの鳴る方へ
わかる、これだけはわかる
あの人が、私のママだ(違う)