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L・サニー・ハンセンの理論で考える「キャリアはデザインできるのか?」
いまや聞き慣れた感じもする「キャリアデザイン」という言葉。
「キャリアデザイン」とは、将来のなりたい姿やありたい自分を実現するために、自分の職業人生を主体的に設計し、実現していくことです。
キャリア(個人の生き方や働き方)を自立的にデザインすること,とくに仕事や人生で岐路に立った時に自分のキャリアについて主体的にデザイン(設計)したり,リデザイン(再設計)したりすることとされる
これらから、キャリアデザインとは「キャリア(=生き方そのもの)を自ら設計していくこと」を指すことがわかります。
デザインというと、絵を描いたりレイアウトを整えたりする美的要素を感じがちですが、キャリアデザインの意は「考案・設計」なんですよね。
デザイン【design】
1 建築・工業製品・服飾・商業美術などの分野で、実用面などを考慮して造形作品を意匠すること。「都市を—する」「制服を—する」「インテリア—」
2 図案や模様を考案すること。また、そのもの。「家具に—を施す」「商標を—する」
3 目的をもって具体的に立案・設計すること。「快適な生活を—する」
とはいえ、本当に自分でキャリアをデザインできるものなのでしょうか?
収入の高い仕事を目指したい
やりたいことや好きなことを仕事にしたい
ワークライフバランスを大切にしたい
自分が成長できる環境で働きたい
こんな目標をもって、自分の人生を設計していくことは、果たしてできるのでしょうか?
すべてが思い通りに描けるかはわかりません。
自分だけでなく周囲の環境や世の中の情勢など、複数の要素が複雑に絡み合ってきますので、簡単にこれをすればよいという1つの方法が存在するわけではないと、わたしは考えます。
ですが、「思い描いていれば、いつかその通りに進んでいく」ということは自信を持って言えます。
これを「カラーバス効果」と言います。
カラーバス効果とは、特定のことを意識し始めると、日常の中でその特定のことに関する情報が自然と目に留まるようになる現象のことです。
そのため、仕事で抱える問題や課題を普段から意識しておくことで、その問題や課題に関する情報がよく目に入るようになり、原因の把握や解決方法の発見などに繋がることがあります。
「好きなことを仕事にしたい」と思っていれば、自然と「好きなこと」に関連するニュースが目についたり、人の話が耳に入ってきたりします。
意識することで、行動が変わります。
行動が変わると、環境が変わります。
環境が変わると、経験が変わります。
経験が変わると、自分が変わります。
そうやって気づかないうちに自分がどんどん変化し、成長していきます。
その結果、「好きなこと」を仕事にするチャンスが舞い込んでくる、というわけです。
では、どのようなキャリアをデザインしていきましょうか?
そこで役立つのがキャリア理論です。
様々な理論家がいて、多種多様なキャリア理論があります。
その中でも最近わたしが気に入っているのは「L・サニー・ハンセン博士」の『統合的生涯設計(Integrative Life Planning)』という理論です。
人生における4つの役割を
・仕事(Labor)
・学習(Learning)
・余暇(Leisure)
・愛(Love)
とし、これらをキルト(パッチワーク)のように紡いで、人生をより豊かなものにしていくという考え方です。
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入社した頃はとにかくがむしゃらに働いていました。
毎日全力で働いて、空いた時間でスキルアップのために資格取得の勉強をして・・・とにかく仕事ができる人になりたかったですね。
周囲からも一目置かれるくらいの活躍ができてきて、同期の中では出世頭になるんじゃないかと噂されるくらい、順風満帆の人生でした。
ところが、25歳の時に体調を崩してしまったんです。思うように身体が動かなくなってこれまでのような働き方ができなくなったんです。その後、入院して治療に専念しなければならなくなり・・・結局、会社を辞めることになりました。それまでがむしゃらに働いてきたツケが現れたんでしょうね。
仕事もできずにただベッドで寝ている自分が嫌で嫌で。毎日誰かに話を聴いてもらわらないとおかしくなりそうでした。隣のベッドのおじさんにはよく愚痴っていましたね。
ところが、隣にいたその方は、実はとある会社を経営する社長さんだったんです。これまでがんばりや、いくつかも資格を持っていることを認めてくれて、「退院したらうちに来い」とまで言ってくれて・・・本当に救われました。
それが今の会社です。社長は「従業員の幸せが一番」と言って、私が無理なく働ける程度に配慮してくれたんです。おかげで働きながらも治療を続けられて、27歳の時にはもうすっかり良くなったんですよね。
ちょうどその頃に素敵な出会いもあって、結婚することになりました。社長だけでなく、会社のみんなが祝福してくれて、本当にうれしかったな。
いまでは家族も増えて、仕事も家庭も自分の身体も大事にできています。「従業員の幸せが一番」と言っていた社長の気持ちって、もしかしたら「家族の幸せが一番」という今の私の気持ちと似ているのかもしれないですね。
でも、そろそろ会社には恩を返したいと思っているんです。だから最近、資格取得に向けて勉強を始めました。もっと会社の役に立つ人間になって、今度は社長を幸せにしたいですね。
例えばこの方の場合、最初の会社では「仕事」×「学習」が中心でした。しかしいまの会社では「仕事」×「余暇」×「愛」に変わってきています。今後は「学習」も加わるかもしれません。
その時々で自分の役割が変化します。人生のステージによってこの4つの役割のバランスが変化するということを、キルト(パッチワーク)で表したのが『統合的生涯設計』です。
役割がなくなるわけではなく、その比重が変わるという感じですね。そして4つの役割それぞれを紡いでいくことで、その人らしいキャリアが描けるとしています。
さらに、ハンセン博士は次の6つの課題を提示しました。
グローバルな状況を変化させるためになすべき仕事を探す
人生を意味ある全体像のなかに織り込む
家族と仕事の間を結ぶ
多元性と包括性を大切にする
個人の転機と組織の変革にともに対処する
精神性、人生の目的、意味を探求する
「愛」や「家族」をキャリア理論に組み込んだのは、女性として大きく変化する時代を生き抜いたハンセン博士ならではの視点なのかもしれません。
「キャリアをデザインする」というのは、「仕事・学習・余暇・愛という役割をどのように紡いでいくか」ということ。一人ひとりが色とりどりのキルトを紡いで社会を作り上げていると思うと、人生が多彩で豊かなものだと改めて実感できます。
わたしはどんなキャリアをデザインしてきたのか―――改めて捉え直してみたくなりました。
あなたの人生はどんな彩りを描いていますか?
明日も佳き日でありますように