22話. 時空を超えて再び出会った初恋の人
私の名前はお片付け薫。お部屋も身体も心も片付ける、お片付け研究家薫です。お部屋をスッキリ綺麗に片付けたら、身体の不調も片付き、心のモヤモヤも片付き、思考までもがクリアになってきた。自分にとって余計なモノ、余計な思考が片付いた時、曇っていた視界が晴れ渡り、空から不思議な囁き声が聞こえ始めた。その囁き声に導かれるまま、私は新たな人生を歩きだす。片付けから始まる不思議な物語。
「私、子ども達に音楽を教えたいんですよね〜。以前はスイス人のご夫婦と一緒に学校で子ども達に音楽を教えていたんです。でも、そのご夫婦が国に帰ってしまって、それから私一人ではなんだか上手く行かず、やめてしまったんです。」
「そうなんですかぁ~」
部屋に置いてある電子ピアノに目を向ける。
「ピアノはいつからやられてるんですか?」
「うーん、3歳くらいからかな?」
「ずこい!長いんですね」
ピアノの話を始めると彼女はとても嬉しそうな表情を見せた。彼女と言うよりは彼女のインナーチャイルドがとても喜びだした。
「私の娘もピアノを習っていて、親バカですけど、私、娘のピアノの大ファンなんですよ。彼女の奏でる音には気持ちがすごくこもっていて、感動して涙が出るくらい大好きなんです。さちこさん、何か弾いてくださいよ。」
「えー、私はそんな…」
彼女の言葉に、とたんにインナーチャイルドがしょぼんと下を向いてしまった。
私の前振りが悪かったかな?私のせいでごめんね、インナーチャイルドちゃん。。
結局その日は彼女のピアノは聞くことはできずに失礼してきた。
次の日、食堂で朝食を食べ終え、また広場のベンチに座っていると、
「薫さーん!」
と声をかけられた。
「あ、さちこさん。またお会いしましたね」
「朝食を食べに来たんです」
「あー、そうなんですね」
「チャイ飲みに行きませんか?」
とさちこさん。
「あ、じゃあぜひ!」
と言ったものの、お財布が気になる私。だって私の所持金は3万円弱。。。
さちこさんがアシュラムから少し歩いた所にあるチャイショップに連れて行ってくれた。
そこでチャイを飲みながら話をしていると、後ろから
「あ、さちこさん!」
と、男性の声がした。
振り返ると笑顔の素敵な男性がこちらに向かって歩いてくる。
「あー、本田さん!チャイ飲みに来たんですか?」
とさちこさん。
「うん。一緒にいいかな?」
「もちろん!あ、本田さん、こちら薫さん。」
「初めまして薫です。」
「本田です、よろしく。」
心がホッコリするような素敵な笑顔だ。
さちこさんと本田さんは、音楽サークルで知り合ったそう。本田さんはバイオリンを弾いているそうだ。
「えー、バイオリン弾かれるんですか?私、バイオリンの音、すごく好きなんです。何でかわからないけど、すごーく好きなんですよね~。あ、私、小学校の頃吹奏楽部でコントラバスを弾いてたんですよ。何でかよくわからないけど、弦楽器が好きなんです。今度聞かせてください。」
「あー…でもね~、実は今ちょっと挫折気味でさぁ。披露できるようなもんじゃないなぁ」
と、苦笑いをみせた。
「そうなんですかぁ…」
そんな話から始まり、3人でいろんな話をした。ほとんどが私の話だったけど。
聞き上手な本田さんに乗せられ、私の過去の話から、今現在の私の?我が家の?状況まで、ぽんぽん話してしまった。
1時間以上話したかな?
「よし、じゃあ薫ちゃんの楽しい話も聞いたし、そろそろ行こうかな?」
と本田さん。
「じゃあ私たちも行きましょうか?」
とさちこさん。そして、
「あ、明後日だっけ?帰るの。」
「うん。お昼すぎにここを出るよ。」
と本田さんは言う。
「えー、明後日帰るんですか?」
「そうなんだよ、また会えるといいね。」
3人でチャイショップを出た。
私と本田さんは同じ方向、さちこさんは逆方向。さちこさんと別れ、私と本田さんはまた話しながら一緒に歩いた。狭い道を歩いていると、リクシャが前からやってきたので、私は一歩下がって本田さんの後ろを歩く。すると、温かい心地よい風がふぅ~っと吹いてきた。
あれ?すごく懐かしい。何だろうこの懐かしい感覚。。。
あ!
気がついた。
私の記憶が走馬灯のように遡る。
お兄ちゃん!お兄ちゃんだ!
本田さんは、私の初恋の人。少し年上のお兄ちゃんのような存在だった。本田さんも私を妹のように可愛がってくれた。お互いに気持ちはあったが、私もお兄ちゃんもそれを伝えることはなかった。
お兄ちゃんはその当時もバイオリンを弾いていたの。バイオリニストになるのが夢だった。でも、時代が時代だったから、その夢を叶えることはできなかった。
私がバイオリンの音色が好きな理由。それがやっと分かった。
私はバイオリンが好きなんじゃなくて、
お兄ちゃんが弾くバイオリンが好きだったんだ。
お兄ちゃんの奏でるあの音が好きだったんだ。。。
「じゃあ、僕はこっちなんで」
と本田さんが振り返り言った。
「あ、、、は、はい。気をつけて帰ってくださいね」
「うん。ありがとう。でも、帰る前にもう一回お茶しようよ。」
「はい、ぜひ。」
と、私たちはまた明後日会う約束をして別れた。
待ち合わせの時間より少し早く着いた。
待っている間、携帯をチェックしてふと顔を上げると、お兄ちゃんが立っていた。驚いた。いつ来たんだろう?全く気配を感じなかった。
「待った?」
「いえ、全然」
「良かった。じゃあ行こうか」
「はい。」
この前あって話している時もそうだった。本田さんに会うと、私のインナーチャイルドは、仔犬のように喜ぶの。舌を出し、尻尾を振って、息を荒くして喜ぶ仔犬のような、そんな感じ。
あの時は分からなかったけど、今はよくわかる。そうなるのも無理ないよね。久しぶりに会った、お兄ちゃんのような初恋の人だもん。
「今日は昨日とは違うお店にしよう。昨日のお店にはきっとさちこさんがいるだろうから…2人でゆっくり話したいし。」
「はい。。」
ん??と思ったが、気にせずに、私たちは昨日とは違うチャイショップに入った。
またもや聞き上手の本田さんに乗せられ、私は自分事をたくさん話した。今日もまた本田さんはたくさん質問をしてくる。何が好き?趣味は?どんな人がタイプ?料理は好き?またまた質問攻めだ。
後で気づいたけど、私ばっかり喋っていて、私は本田さんのことを何も知らなかった。
でも、、そうなるのもわかる気がする?そうなるよね、久しぶりに会ったんだもん。
何年ぶりだ!なんてはっきりとは言えないけど、私が感じるには多分、一つ前の前世。
久しぶりだね!元気だった?今何してるの?何処に住んでるの?どんな恋愛をしてきたの?今は幸せなの?
そんな風に聞きたくなるよね。
「あ、、そろそろ行かないと。。。」
「あ、、、もう時間ですね。。」
私たちはお店を出て、私はまたお兄ちゃんの後ろを歩く。。。
「じゃあまたね。」
本田さんが後ろを振り返る。
「はい、また。。。」
「また来年来るつもりだから、その時また、会えたらいいね。」
そう言ってお兄ちゃんが右手を出した。
「はい。。。」
お兄ちゃんの手を握り握手をしたけど、、
「ハグ…駄目ですか?」
言ってしまった。
「もちろん!」
「じゃあ、、、また。。。」
お兄ちゃんは振り返り行ってしまった。
見えなくなるまでお兄ちゃんを見送る。
あの時と同じだ。
あの時と同じ。。。きっともう会えないんだろうな。
でも今回は違う。
あの時伝えられなかった、私の気持ちは、きっとお兄ちゃんに、ちゃんと伝わっている。
だって私のインナーチャイルド、いや、魂が微笑んでいる。
満足してくれたんだろう。優しい笑顔で微笑んでいる。
私はさちこさんのお陰で前世の初恋の相手に出会う事ができ、あの時伝えきれなかった後悔の気持ちを、時空を越えて片付けることができた。
全ては偶然ではなく、必然に導かれている。
ここインドに来てから、それをつくづくと感じる。
神様、ありがとうございます。
感謝せずにはいられない。
私がここに来た理由が、ちょっと分かってきた気がする。。。
(この物語はフィクションヒューマンドラマです)
第1話https://note.com/okatadukekaoru/n/ne7b0fb9ff425