あとがき「現代人物論 池田大作」小林正巳著(昭和44年9月25日)最終回
どうやら書き終えたものの、非力なせいもあって 、まだまだ書き足りないように思えてならない 。
それに十七年間、第一線の記者生活をしてきた私にとっても、現存の人物について書くのは、大変むずかしいことであった。それも、すでに 何かをなし終えた人ならともかく、まだまだ将 来のある人物の場合には、なおさらといえよう。なぜなら、その人物評は、十年、二十年後の評価にも耐えられるものでなければならないと思うからである。
しかし、私は過去にさかのぼって、池田氏が書いたもの、発言の記録などを現在の思想、行動と照合した結果、その考えが終始一貫しているのをみて、ある程度、確信をもって書いた。昭和の世代に生まれて、すでに 過去に大きな足跡を残し、なお将来に無限の可能性を秘めているような人物は、池田氏をおいて見当たらない。人間の可能性を追究する上でも、池田氏は実に興味深い人物である 。
私はこの書のなかでいろいろな角度から池田氏を分析したうえで妥当な評価をしたつもりである。にもかかわらず、私の評価に対する多くの批判が待ちうけていることも承知している。それは、主として「 批判がない」「 客観的でない 」などの理由であるに違いない。
だが、そういう人たちの多くは批判的な立場から書かれた書に対しては、無条件に客観的な記述として受け入れるだろう。その書に使われているデータの正否、池田氏の指導の中味や創価学会に対する正しい認識の有無、分析の深浅、そんなことよりもただ批判的であり さえすればよいのである。
そこで私がいいたいのは、客観的とは対象に対する正しい認識と判断の上にこそ成立するものであることだ。そもそも誤った認識にもとづく偏見や感情をもってしては、客観的評価などできようはずがないのである。
たまたま、この書を書いているとき、大阪のある紛争大学の学生が師弟関係や友情が薄れ、学生同士が傷つけ合う学園の荒胴に前途の希望を失ってみずからの命を絶ったニュースが報じられた。
政治は、ここまで深刻化した学園紛争を、制度の改正によって解決しようとする以外の手段をもたないが、紛争要因の根深さから考えれば、一片の法律で根本的に解決できるようなものではあるまい。
一方、同じ日のある新聞は、さきに日本の経済成長を国民がどう評価しているかについて調べた世論調査の結果を掲載した。そこでは、戦後の経済第一主義によって、もたらされた人間軽視のひずみが人心の荒廃を進めていると問題を提起し、国民の多くがマイナス面として、物価高、公害増加とならんで人間喪失をあげたことを明らかにしている。
しかし、具体的解決策をもたない、問題提起だけではどうにもならないはずだ。このままでは、人間疎外の現象はいっそう進み、節度のないエゴイズムの衝突、世代の断絶による対立葛藤は果てしなく続くに違いない。
もし、そうした現代社会の行き詰まりを解決できるとすれば、その可能性をもつのは、さし当たり、池田氏をリーダーとする思想運動ではなかろうか
現在のところ、創価学会外においては池田氏の言葉に耳を傾けるものは少ない。それは十年を単位とする池田的展望と、一年を単位とする一般の感党がかみ合わないせいもあるだろう。
だが、いずれ池田氏が広く知られるようになれば、宗教団体の枠をこえて、とくに若い世代の間には、池田氏の言葉に影響されるものが多くなるのではないだろうか。なぜなら、池田氏の考えは一創価学会に限らない普遍性があると考えるからである。
私は池田氏のいう「人間尊重を第一主義とする社会」,それが現実のものとなることを期待したい。
創価学会は日進月歩、着々と勢力を伸ばしている。したがって、組織に関する細かい数字などは、いまの時点で書いたところで、すぐ古いものになってしま 。私が本書のなかで、大づかみな数字以外一切書かなかったのも、そのためである。
また、引用した書物の著者以外現存の人の名前は一切伏せたが、なにも出すことが不都合なわけではなく、読者の目を「 池田大作」に集中してもらうためであった。
これまで、多忙な中を私とのインタビューにしばしば貴重な時間をさいていただいた池田大作氏はじめ学会の方々に感謝します 。
著者の横顔 小林正巳(こばやし まさみ)
「 池田氏は人間よりも国家 優先させてきたこれまでの価値観の転換を主張しています。つまり、国家の名で殺数が正当化される今日の論理に対して、国家は人間が人間性を剥奪されてまでも奉仕するに値するものか、という疑問を提起しているのです」この人間原理の優先を説く池田氏のユニークな発想、とくに若い世代の心を捉えるに違いないと著者はいう。
(昭和四年)東京生まれ。二十六年に座応義塾大学経済学部を卒業。二十七年毎日新聞社に入り、現在は政治部記者として第一線で活躍している。その間、参議院担当時代に池田大作会長を知る。
これまでご購読下さいました皆さま,配信を快諾して下さった小林正巳氏の御遺族ならびに旺文社様に心より御礼申し上げます。
今後は,私自身の体験や忘れえぬ信心の先輩について,配信していこうと思っております。有難うございました。