秘密基地
「ぼくはねえ、おとまりがすきなんだよ」
4歳の息子が、一丁前に言う。
どうして?
「おうちごっこができるから」
おうちごっこ?
「ひみつちきだよ、ひみつちき」
彼は、ホテルにたくさんある枕やクッションが好きだ。それらをベッドに集めて、秘密基地を作る。
ほんとうは、少し休ませるためにホテルを使いたいのだけど、彼はホテルへ戻る度に元気になってしまう。
部屋の角のベッドに、白くて長い枕と紺色のクッションを運ぶ。
一生懸命に、よいしょよいしょと運んでいく。
斜めに立てかけたり、積み上げて囲いを作る。
「さあ、できたよ。だれか、ぴんぽーんてこないかなぁ」
可愛くて大きい独り言に、娘が元気よく「ぴんぽーん」と突撃する。
きゃあきゃあとはしゃぐ彼らの声が、5分後には口喧嘩になることなど簡単に想像がつくのだけど。
「ぴんぽーん」
そう言うと、額に汗して遊ぶ二人の、最高の笑顔が見える。