入道雲が目に染みる

「このままどこかへ行ってしまいたいですね」

後部座席で同僚が呟く。世の中はもう夏休みだが、私たちはまだ働く。

目の前には、入道雲がこれでもかと夏を見せつけてくる。

もくもく もくもく
それは美しく、避けて通ることなど出来ない。ただまっすぐ、この道を突き進むのみ。

「ガソリンスタンドならいけるよ」
苦笑した私に、同僚は口をすぼめて窓の外を向く。

車の窓を全開にして、排気口から冷気を無理やりひねり出しても、車内にはまだむっとした暑さが残る。

うんと年下の彼女にとって、私は一緒にどこかへ行ってしまいたい相手なんだと思うと、すこしだけホッとする。ごめんね。

カーステレオから、優しい歌が流れだす。音量を上げ、歌いながらハンドルを切る。

私はもうすぐここを去るけれど、一緒に泣き笑い過ごした日々を、このしょうもない雑用の日を、目の前の入道雲を、もうすこし覚えていよう。

#旅する日本語 #心細し

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