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【俳句鑑賞】一週一句鑑賞 24.01.21

受験票よし一月の雨きれい

作者:コンフィ
出典:愛媛新聞 青嵐俳談 23.02.03

季語は「一月(いちがつ)」で、晩冬。俳人でなくとも皆知っている、ごく簡単な季節の言葉であるにも関わらず、俳句に詠むとなると本意を掴むのが難しい季語のひとつ。他の「◯月」や、同じ時期を表す別の時候の季語に動かないかどうかも考えなければなりません。

さて、掲句。「受験票よし」は、受験日当日の朝か前日の夜を想像させますが、句のその後の展開から、僕は後者を思いました。持ち物のチェックを一通り終えて、あとはしっかり寝るだけ。ふと窓の外を見ると、街灯に照らされた雨は白い光の筋となり、尾灯に照らされた水たまりは赤く輝く湖となっている。ああ、きれいだな、と思う。普段はそんなこと思いもしないのに、受験本番を前に浮ついてるのかな。明日には止んでるといいな。……というような、ほんのちょっとした時間のちょっとした感情の動きが、実に簡潔に見事に表現されているなと思いました。

この季語「一月」は、他の「◯月」には動かしがたいと思います。受験は必ずしもこの時期にしか行われない訳ではありませんが、中学・高校・大学受験のピークは二月であり(したがって「受験」は春の季語)、一月はその前哨戦として地方の私立中学の試験や大学入学共通テスト(旧センター試験)が行われます。これが“最初の本番”となる受験生も多い。その前提があるからこそ、「一月の雨きれい」に込められた感情の機微が伝わってくるのです。
また、同じような時期を表す別の時候の季語としては、例えば「晩冬」「冬深し」「厳寒」「大寒」「寒中」などがありますが、やはりここは「一月」がベストなのではないかなと、僕は思います。それは、「一月」という表現が、この作中主体の季節の感じ方として一番自然だと考えるからです。受験って、やたらと「本番まであと◯ヶ月!」みたいな煽り方をされますよね。「◯月までにこの本の英単語を全部覚えるぞ!」とか、「◯月までに三角関数を完璧に解けるようにするぞ!」とか、学習進度を月で区切る受験生も実際多くて、そういう人物なら、雨を見て「寒の雨だな」と思うより先に「一月の雨だな」と感じるのではないかと。そこに「一月」の説得力があるなと思います。

季語「一月」を詠む難しさ。「きれい」のような、描写ではない主観的な判断の言葉を詠む難しさ。その両方に挑んで見事に結球させた一句として、記憶しておきたい作品です。

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