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【俳句鑑賞】第5回おウチde俳句大賞 その1

「夏井いつきのおウチde俳句くらぶ」内の俳句イベントのひとつ、「第5回おウチde俳句大賞」に投句された作品を鑑賞していきます。
俳句の出典は、すべてこちらのページから。

風薫る今度は廊下あるうちよ

作者:舞童あづき

季語は「風薫る(かぜかおる)」で、夏。
春には「風光る」という視覚的な季語がありますが、夏になると嗅覚・触覚のほうが立ってきて、「風薫る」とか「風涼し」のような言い方をするんですね。この「薫り」は、主に森の匂い・若葉の匂いを言うとされています。

「今度は廊下あるうちよ」とは、子どもへの呼びかけか、あるいは自らに言い聞かせる呟きでしょうか。
今までは廊下のない家に住んでいたという切ない現実があるだけに、やっと廊下を手に入れたという喜びが爆発しています。
新しく「廊下」が出現した途端、一気に吹き渡る風のなんと心地よいことか!
空間的にも心情的にも、季語「風薫る」はベストな選択だと思いました。

首振れず風呂場へ左遷扇風機

作者:丹波らる

季語は「扇風機(せんぷうき)」で、夏。
近頃は冷房が主流ではありますが、暑さを乗り切るアイテムとして扇風機もまだまだ現役ですね。個人的には、むしろ冷房よりも夏らしい季語だと思っています。

この句は、何と言っても語順が面白いですね!
「首振れず風呂場へ左遷」まで読んだ段階だと、「上司の命令に頷けずに風呂場(担当)へ左遷された」のような想像をするのですが、「扇風機」の出現によって一気に読みがひっくり返るという仕掛け。
この語順の面白さによって、「左遷」という擬人化も効いてきますし、季語「扇風機」の持つ人情味のようなものも感じられます。

「左遷」された当の扇風機はトホホな訳ですが、首が振れなくなってもまだ使ってあげるあたり、作中主体の扇風機への愛情も感じられますよね。
「扇風機」という季語がとても輝いている一句だと思いました。

かくれんぼの最中麦茶飲みに来る

作者:ぞんぬ

季語は「麦茶(むぎちゃ)」で、夏。
大麦の収穫期が初夏であることから、夏の風物詩として盛んに飲まれてきました。元々は暑気払いとなる温かい「麦湯」が一般的で、「麦茶」はその傍題という位置づけだったのですが、現在は「麦茶」という呼称のほうが一般的ですね。なお、冷えたものも「麦湯」と呼び、温かいものも「麦茶」と呼ぶので、両者の違いは語感と歴史ということになります。

さて、この句はいかにもありそうな光景という感じで、微笑ましくて良いですね。
「最中」は「さいちゅう」と読みました。かくれんぼをしているのは幼い子どもたち。
「麦茶飲みに来る」という表現だけで、暑い日であること、元気に走り回る子どもたちの姿、やれやれと思いつつ麦茶を出す家主の笑顔、それから家の中まで「かくれんぼ」のフィールドになるという懐かしいあるある感、そういったものが全部伝わってきます。
季語「麦茶」の持つ日常感も存分に活かされている作品でした。

ふぁしゃふぁしゃと婆さんの髪洗いけり

作者:コンフィ

季語は「髪洗う(かみあらう)」で、夏。
これは伝統的な季語のひとつで、かつては「特に女性が長髪を洗うことを指す」とされていました。実際的に、夏に顕著に見られる光景であったわけです。現在ではそうした性差・季節感は薄まっていますが、季語としての情緒という面では、女性のイメージや夏らしい爽快感というものは残っていると言えるでしょう。

この句は、まず「ふぁしゃふぁしゃ」というオノマトペのインパクトが強いですね。
オノマトペは単に面白いだけでは駄目で、音としてリアルであること、そして映像や心情など付加的情報が伝わることが重要ですが、この「ふぁしゃふぁしゃ」はまさにそんなオノマトペになっています。
爺さんではない「婆さん」の髪らしい質感・手触りと、それを洗う音。よく見えますし、よく聞こえてきます。

そして、このオノマトペの良さを信じて、余計な言葉を付け加えなかったのも素晴らしいですね。
切れ字「けり」がきっぱりと効いていて、季語「髪洗う」の爽快感が引き出されています。
オノマトペを使って伝統的な季語に新風を吹かせた、語り継ぎたい一句だと思いました。

脇腹にウルトラマンの刺さる蚊帳

作者:片野瑞木

季語は「蚊帳(かや)」で、夏。
絶滅寸前季語のひとつでしょう。かつては夏の風物詩として一般的な物でした。いま「蚊帳」を詠むというのは、そうした時代の記憶を語り継ぐことであるし、この季語でしか表現し得ない情緒というものを突き詰めていくことでもあります。

この句はとにかく一語一語が巧く、季語「蚊帳」の現場をありありと再生し語り継ぐ、そんな一句になっていますね。
「脇腹」からは、蚊帳という空間の狭さや寝る人の姿勢が伝わり、「ウルトラマン」からは、蚊帳のある時代や寝る子の幼さが伝わり、「刺さる」からは、ウルトラマンがフィギュアであることやその尖った形状が伝わります。
「刺さる」は季語の描写ではありませんが、ここに触覚という五感情報が入ることで、季語の現場がより強く記憶されていくのです。これも語り継ぎたい一句でした。

3秒でねれる星月夜のボタン

作者:いといと6才

季語は「星月夜(ほしづきよ)」で、秋。
秋は空気が澄むので、星や月がとてもクリアに美しく映ります。「銀河」や「月」が秋の季語なのはそのためです。「星月夜」は、「星と月が綺麗に見える夜」と勘違いされがちですが、そうではなく、「月が出ておらず星が(まるで月のように)綺麗に見える夜」のこと。メルヘンチックで素敵な季語ですね。

この句は、季語の持つそのメルヘンさを存分に活かしています。
この「ボタン」を使えば、3秒で眠りにつける。なんと健気な御守りでしょう。
服の「釦」を握りしめると読んでも良いし、ポチッと押すと魔法が発動する「ボタン」と読んでも良いですね(あるいはその両方かも)。

そして、(自然とそうなったに違いありませんが)表記にも工夫があります。
「3」という算用数字、「ねれる」という平仮名・ら抜き言葉、「ボタン」というカタカナ。これが「三秒で寝られる星月夜の釦」では、ずいぶん印象が変わってしまいますね。
季語「星月夜」の優しい世界観が見事に表現されていて、愛唱句にしたい作品でした。

長文お読みいただきありがとうございました!その2に続きます。


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