【俳句鑑賞】一週一句鑑賞 24.12.08
鯛焼のそれもそうだといった顔
作者:あいだほ
出典:第70回松島芭蕉祭並びに全国俳句大会
季語は「鯛焼(たいやき)」で、冬。一年中手に入るスイーツではありますが、あの温かみが一番沁みるのは、やっぱり冬ですね。手袋ごしの紙包み、白息と混ざる湯気。絵になります。
「鯛焼」の一物仕立ての句というのはそれなりに読んできましたが、ここまで描写していないものには初めて出会いました。いや、ある意味描写しているんですが、一物仕立ては描写の精緻さで勝負する作品が多いので、逆に新鮮というか。特に「といった」の部分。曖昧です。でも、曖昧だからこそ、この「鯛焼」の表情や、どんな人物が食べているのかが想像できる。そこが面白かったです。以下は、僕の勝手な想像を。
――作中主体は勤め人。口には出さないけど、仕事に関して漫然とした不満がある。たとえばイヤな上司がいるとか、部下の教育がうまくいってないとか、薄給だとかサビ残が多いとか。
仕事帰りにふとお店が目に入って、なんとなく「鯛焼」を買う。ごく普通の、よくある顔の鯛焼。
コイツは笑ってくれたり、一緒に怒ったり泣いたりしてくれることはない。そりゃそうだ。同じ型で焼かれた、量産型の顔。それでいい。量産型サラリーマンの私にとっては、それがいい。「それもそうだ」という、本当に聞いてるんだか聞いてないんだか分からない、とりあえずの肯定の顔が、今は嬉しい。
食べてみれば、普通に美味しくて、まあまあ満たされる。何も解決してないけど、まあ良い一日だったということにしよう。――
想像というか妄想に近いものになってしまいましたが、それだけ掻き立てるものがあった一句ということで。皆様も、今夕は「鯛焼」、いかがでしょうか。良い一日になりますように。
※今回の俳句鑑賞は、五月ふみさん主催の「好きな俳句の一句鑑賞 Advent Calendar 2024」という企画に参加させて頂いています。クリスマスまで毎日一句ずつ鑑賞が読めるという素敵企画です。他の方々の鑑賞もぜひ読んでみてください!