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前代未聞の大事件!盤外の反則で優勝決まる【第29回LG杯朝鮮日報棋王戦・決勝三番勝負】

 1月20、22、23日に「第29回LG杯朝鮮日報棋王戦」の決勝三番勝負が行われ、韓国の卞相壹九段が中国の柯潔九段に2勝1敗で勝利し、世界戦優勝を飾った。しかし、第2局は反則負け、第3局は棄権負けと世界では初めての大事件が発生した。

【対戦成績】※左側が勝者
第1局(1月20日):柯潔九段―中押し―卞相壹九段
第2局(1月22日):卞相壹九段―反則負―柯潔九段
第3局(1月23日):卞相壹九段―棄権負―柯潔九段


原因は「アゲハマの置き場所」

第3局で問題となったアゲハマ。赤で囲まれた白石が碁笥の蓋に収められていない

 端的に言えば、第2局と第3局で中国の柯潔九段がアゲハマ(盤上から取り除いた石)を碁笥の蓋に置かなかったことが原因。2024年11月8日に適応された韓国ルールでは「アゲハマを蓋に保管しなかった場合、1度目は2目の罰則(ー2目)、2度目は反則負け」が定められている。中国側には、新ルールは通知されていたようだ。

 新ルールと証拠映像を元に、第2局は審判が反則負けを宣言し勝敗が確定。第3局も反則負けが宣言されるも、中国側が抗議し2時間15分ほどの対局中断。結果的に柯潔九段が途中で対局場を去り、棄権負けという結果となった。(こちらの3:52:00~6:05:00を参照)

中国囲棋協会の声明原文

 今回の結果を受けて、中国囲棋協会は「審判による中断のタイミングは不適切であり、対局進行に支障をきたした。再対局を申請したが認められず、第3局の結果は受け入れられない」と表明された。


状況が最悪だった

対局が中断された現地画像

 なぜ、第3局の反則負けがここまで大きな問題に発展したか。それは審判が中断を申し入れたタイミングであった。韓国の卞相壹九段がどのような決断をするか、『まさに本局の最終局面を迎えたところでの中断』。柯潔九段は「重要な局面で考える時間を与えるのはどうなのか。せめて相手が打った後に止めるべき」と主張。

 また、反則があったのは157手目。実際に対局中断は159手目。その間は約20分の時間が経過していた。この20分に何があったのか。中国の兪斌九段(コーチ)は以下の通りと語っている。

 韓国の関係者が兪斌九段に「柯潔九段が反則を犯した」を告げ、配信のリプレイで確認、2つの白石が碁笥に入っていなかったことを確認。この事実の基、韓国側はペナルティーを求めたという。兪斌九段は「ぺナルティーは不合理であり、課せられるなら対局の中断を要求し不服を申し立てる」ことを伝えると共に「ペナルティーとなる根拠を書面で提出する」ことを求めたという。その後、審判は対局場へ行き、反則負けを宣言する流れとなった。


新ルールの経緯

各国の言葉に翻訳された新ルールの公文(2024年11月8日発効)

 盤上の勝負とは関係のないルールが作られるようになったか。それは韓国ルールと中国ルールが異なることが原因だ。韓国ルールの地合計算は、アゲハマと盤上の陣地の合計で決まる(日本ルールとほぼ同義)。中国ルールでは碁盤に置かれた石のみで計算する。簡単に言えば、盤上にどれだけ生きている石があるかを競うものである(=盤上の生きている石+自分の陣地)。

 つまり、中国ルールではアゲハマ(盤上から取り除いた石)は勝負に関係がなく、極端なことを言えば、取った石はどこに置いていても問題はない。その結果、本棋戦のような事態を引き起こしてしまった。

 また、このルールが作られた別の経緯として「中国の棋士は、アゲハマを碁笥の中に入れたり、碁盤の近くにおいて見えない」などの韓国の棋士による抗議が多かったのも要因だという。ただし、1回目で警告、2回目で反則負けの罰則はあまりにも強力でルールを検討する雰囲気があると、ある韓国の審判員は話しているという。


囲碁はシンプル

韓国の審判が今回の結果と経緯を話している様子

 盤上の勝負以外の要素で、世界戦決勝の勝敗が決定されるのは前代未聞。ファン視点でも見ても、最高の舞台が盤外のルールで決するのは残念で仕方ない。そして、スポンサー視点でも決して良いとは言えないだろう。

 ただ、一定のルールを定めなければ無秩序になる可能性もあるのも事実。今回の件に限らず、ルールに書かれていないもので審判の責任で黒白つけなければならない場合もある。その時の精神的な苦痛は図り切れず、ルールで縛ることで迷いを断つのは大切だ。

対局場から去る中国の柯潔九段

 しかし、本棋戦では誰もが不幸になる結果となり、多くの方が「囲碁は難しい」や「勝負以外の要素で勝敗が決するのは……」とマイナスの印象を持たれたことだろう。今回の教訓をきっかけに、日中韓の三ヵ国で世界戦共通のルールを作るなど、悲惨な結果を招かない対策が必要だ。

 なお、日本ルールは曖昧なことが多い中、最初の一文に「この規約は対局者の良識と相互信頼の精神に基づいて運用されなければならない。」と明記されている。いわゆる性善説に基づいて、マナー良く打とうということだ。勝負という意味で、スポーツのようにルールで縛ることも必要であるかもしれないが、書き出したら切りがない。あるラインを境に、人間的な良心に任せることも必要なのではないだろうか。

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