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着物の伝統と未来を語る-きもの語り(後編)-「伝統と革新 藤井絞 4代目 藤井浩一氏」vol.1-2

日本全国には、その土地の風土から生まれた工芸品、文化が数多にあります。そんな工芸品・文化を継承し、新たな挑戦を続ける方と弊社博多織元5代目社主 岡野博一の対談をお届けします。

この大好評(になる予定)シリーズ!の記念すべき第一弾は老舗 京鹿の子絞り 藤井絞 4代目 藤井浩一氏にお話しを伺いました。

笑顔がとっても素敵な藤井さん。
実は藤井さんと岡野は10年来の付き合いで、共にこの着物業界で革新的な挑戦を続け、お互いに刺激し合ってきた、いわば戦友です。

冗談、笑いありの楽しい対談になりました。

※こちらの記事は後編になります。前編をまだお読みになってない方はぜひ先にvol.1-1をお読みください。

藤井絞株式会社
創業大正4年2月の京都の絞り染め呉服製造卸。
「京鹿の子絞」の伝統を受け継ぎ、様々な技術を駆使し、世界で一点のオリジナル商品を生み出しています。

■これは本当に木綿ですか?

岡野:3年もかけて生地から着物を開発している会社なんて、このご時世にほとんどないですよ!すごい!
どうして「はごろ木綿」を開発しようと思ったのですか?

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↑「はごろ木綿」木綿とは思えないトロンとした柔らかさが特徴

藤井さん: 僕は自分自身が毎日着物を着ている着物ユーザーなんですが、暑くなってくる5月から9月は綿麻素材の着物を着ることが多いんです。
でも、涼しく、寒くなってくる10月から5月までに着れる「洗える」かつ「綺麗な見た目」の着物がないなって思ったんです。
もちろん、絹もいいんですが、長時間の移動だったり、荷物運んだり、焼肉行ったりと、絹の着物だけでは、しんどいなって。

岡野:そこで「洗える」かつ「綺麗な見た目」の「はごろ木綿」を作ろうと思ったんですね。焼肉好きの藤井さんには死活問題ですもんね!

藤井さん:笑 普通の木綿もいいんですが、着心地もなめらかで、トロンとした落ち感があって、見た目も絹のような綺麗さがある着物がつくりたかったんです。

岡野:いや、本当に木綿とは思えないよ。いいものつくったね。藤井絞の代表作になるかもね。

あとは藤井絞と言ったら「雪花絞り(せっかしぼり)」も有名だよね。

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↑竜巻絞りの技法で染めた「はごろ木綿」

「おしめ」をリブランディングして大ヒット!?


■藤井さん:そうですね。うちは京鹿の子絞を扱ってきた会社なんですが、「雪花絞り」は有松・鳴海絞の技法なんです。数ある技法の中から「雪花絞り」を見つけて、「お、これはいいな!」って。「雪花絞り」と言ったら「藤井絞」って言って頂けるんですが、私たちはあくまで、元からある技法、紋様を用いてるだけなんです。

※有松・鳴海絞:愛知県名古屋市にある有松・鳴海で生産される絞り染め

■岡野:なるほど。でも世間に知られていないモノを掘り起こし、リブランディングして世の中に紹介した功績は大きいですよ!藤井絞さんがやらなかったら、ここまで「雪花絞り」が世間に知れ渡ることはなかったと思います。
でも、なんで他の絞りのメーカーは「雪花絞り」に力を入れてなかったんでしょうか?

■藤井さん:実は「雪花絞り」の紋様は子供の「おしめ(オムツ)」などによく使われていた紋様なんです。なので、最初は「おしめの柄を大人の浴衣に染めるのか!?藤井絞さん大丈夫??」って心配されましたよ。笑

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↑六角形の雪の花のように綺麗な「雪花絞り」

■岡野:でも、結果大ヒットだよね!

■藤井さん:そうですね。2007年にきもの雑誌の「七緒」さんで掲載されて話題になり、2009年にビールのCMで檀れいさんが着用されたことで、爆発的に人気になりました。
10年以上経った今でもお陰様で多くの方にご愛用頂いてます。

■岡野:あの勢いはすごかったね!! 
その後、他のメーカーの雪花絞りが登場したけど、やっぱり藤井絞さんの「雪花絞り」が本物って感じがします。

■藤井さん:いえいえ、うちはあくまで有松の職人さんが大切に脈々と受け継がれてきた技術と出会って、使わせて貰ってるだけなんです。

■岡野:でもね、みんなに喜んでもらえるモノを生み出すには、「デザイン」「技」が単体であるだけではダメだと思うんです。誰かが、藤井さんのように実際に着物を着ているユーザー目線を持っている人が、トータルプロデュースすることで本当に「いいモノ」が誕生するんだと思うんです。そういう意味でもこの功績は素晴らしいですよ!

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↑紋紗に染めた雪花絞り。絹の素材に染めるとまた、雰囲気が変わります。

「絞り」と言ったら「藤井絞」

■岡野:藤井さんは今後のことはどう考えてます?

■藤井さん:そうですね~、岡野さんと一緒で、次の世代に伝統工芸品でもある「絞り」をどう伝えるかってことは常に考えてます。和装という枠に囚われず、それこそアパレルやインテリアといったマーケットも視野に入れてます。趣味ではなく産業、「仕事」として、この「絞り」をどう伝えていくかですね。世界の他分野のトップと一緒に仕事ができるようになるためにも、まずは和装業界で「絞りと言ったら藤井絞」と言ってもらえるようにならないとですね。

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↑着物だけでなく帯も、もちろん製作されています。(九寸名古屋帯/瑞雲)

■岡野:エルメスも、もともとは馬具のメーカーですもんね。

■藤井さん:あとは「藤井絞を着たい!」と言って頂ける方だけでなく「藤井絞を作りたい!」と若い世代に言ってもらえる会社にしたいですね。そのためにも職人さんに新たな仕事を生み出して魅力的な仕事にしたいですね。

■岡野:いいね。ギャグじゃないけど、「絞りの会社だけど、やることは絞らず」できることは何でもやる。その姿勢がファンにも伝わり支持されているんだと思います。

■藤井さん:ありがとうございます。笑

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編集後記

OKANO アークヒルズ店では2021年6月18日(金)~21日(月)に「老舗 京鹿の子絞り 藤井絞展」を開催いたしました。お陰様で4日間で多くのお客様にご来店頂きました。
来年2022年もまた、素敵な藤井絞さんの一品をご紹介できたらと思います。

今回の対談で「自分で着て「いいな!」って思ったものしかお客様に紹介したくない」という藤井さんの言葉がとても印象的でした。
僕も、いち着物好きとしての純粋な着物愛を忘れずにいたいと思いました。

藤井さん貴重なお時間をありがとうございました。

そしてこの記事を最後までお読みくださりありがとうございました。

指首太志
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藤井浩一氏
京都の絞り呉服メーカー「藤井絞り」の4代目。伝統的工芸品の「京鹿の子絞り」を中心に様々な絞りを駆使し、世界で一点のオリジナル製品を製作。

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岡野博一
伝統的工芸品、博多織の織元5代目。
博多織をルーツとするOKANOを六本木アークヒルズ、博多リバレインモールに出店。日本の伝統工芸を世界ブランド化するために精力的な取り組みを続けている。

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構成/文 指首太志 1990年生まれ 着物業界5年目
大学院で貧困と教育について研究し、卒業後はインドネシア、台湾で教育支援活動をおこなう。海外で生活する中で日本の文化に興味を持ち、中でも着物に強く関心を持つ。帰国後、都内の着物屋を30店舗ほどまわり、博多織の織元OKANOに出会い、入社。仕事でもプライベートでも着物、1年の350日は着物で過ごす。


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