人為的相場操縦の限界 - 「無理は通っても無理」。
最近まともに見るのを止めたマーケットがある - 韓国総合株式指数、通称KOSPI指数である。標題に添付したのがここ1か月のチャートであるが、ここまであからさまな相場操縦も珍しい。この間発表された輸出入量の数値や経済、物価指標はいずれも景気悪化を示すものばかりだったし、外的要因や他の相場変動とも一切関係なく一方的に上昇している。6か月チャート ↓ で見ると一層その不自然さ、異様さに気がつく。まさに「棒上げ」だ。
まあ文在寅政権は左派の革命政権ということで共産主義に向かうのなら、ある意味自然なことかもしれないが(笑)、いったいどのくらいの政府資金がつぎ込まれたのか、国民は知らされているのだろうか。メディアも情報統制されているようであるから知る術もないが、この不自然な株価が下落したときの損失はいったい誰が請け負うのか? こういう相場だと海外からの投資資金の流入は(短期的な利益を狙う売買以外は)まず期待できない。
欧米はマーケットリテラシーが発達しているので、国会などでもこの辺りの追求が厳しく、経済危機など余程の事態でなければ人為的な株価の買い支えなどはまず是認されない。最終的な損失は国民負担になるからだ。人的操作によって作られる相場は健全な価格形成を阻害し、マーケットの活力を奪うことからも敬遠されがちだ。
もう一つ、最近まともに見るのを止めたのがビットコイン。再三指摘しているが、マーケットの寡占状態がひどく(0.7%の参加者が80%以上のシェア保有)価格の上下動が激しすぎる。マーケットの流動性も低いため価格形成機能が正常に働かないのだ。昨日突然100万円を割り込んだらしいが、明確な解説は難しい。無防備なまま飛び込んでここで富を築こうとするのは、徳川の埋蔵金を探し当てるのに匹敵するような困難を伴うと思う。
筆者が投資銀行を辞めて早や3年が経とうとしているが、業界の縮小は凄まじいペースで進んでいる。1番問題になっているのが厳しくなる金融規制と相場の変動率の低下だ。リーマンショック以降、銀行をはじめとする金融機関はリスクに見合った資本の積み増しを迫られているため、在籍するトレーダーは十分にリスクを取れなくなっている。結果として市場は取引の厚みを失い、リスクを取ること自体がリスクとなってしまった。活発な取引がなくなり変動も少なくなったため「マーケットの衰弱死」が進行している。
(金融機関に代わり)国家の関与が大きくなっているのも状況を悪くしている。冒頭で韓国の株式市場を挙げたが、国家による市場の寡占が顕著なのは実は日本である。金額も桁違いだ。日銀が43.5%ものシェアを占める日本国債(JGB、Japansese Government Bond)を筆頭に、株式市場でも日銀のETF買+年金機構の買で100兆円近く購入している。こちらのお題目は「デフレからの脱却」=消費者物価2%の達成、ということになっているが、まあ繰り返しになるが膨大な借金の軽減が隠れた目的、と筆者は見ている。
苦境に陥っている投資銀行業界にとって、むちゃくちゃな言動、政策で株式市場の激しい上下動を演出してきたトランプ大統領の登場は、まさに一種の「慈雨」だったわけだが、さすがに賞味期限切れだ。「消えていく金利」とともに、金融業界の利益を今後更に圧迫していくことになるだろう。
「無理は通っても無理」 - 「損切丸」の座右の銘である。人為的相場操縦が失敗に終わった例を山ほど見てきて、最後に辿り着いた境地だ。ただ市場というのは面白くて、どんなに無茶苦茶に動いても時間をかけて最後はあるべき価格に戻ってくる。その1点だけは信じている。だから無理を承知でマーケットに挑むときは、くれぐれも引き際を間違えないように。