「株」と「金利」の ”シーソーゲーム”。- 投資の「桃源郷」はいつまで続く?
「なるほど、そう来たか...」
昨日(11/5)の米国債のラリー(買い相場)を見た感想。FOMC=「テーリング」という一大イベントの通過である程度の買い戻しは想定していたが、ここまで金利が低下するとは...。10年米国債はあっさり@1.50%割れ。
折しも当日発表の10月米雇用統計 ↓ が強い内容で、教科書通りなら金利は上昇してもおかしくなかった。
非農業部門雇用者数 +53.1万人 予想 ▼5.4万人 前月+31.2万人←19.4万人
失業率 @4.6% 予想 @5.0% 前月@4.8%
これまで雇用統計は米国債の売買いにかなり影響していたが、それは「テーパリング」をいつ開始するのか、が焦点になっていたから。それがFOMCで来年6月までに終了の ”スケジュール” が明示された訳だから、今回は材料視されなくても不思議はない。
こうなると今度は前稿.「利上げ局面」の「金利市場」↓ の中で解説した「キャリー取引」が重要な意味を持ってくる。
米国債買いにポジションを傾けるのに大きな障害となってきた「テーパリング」。その* ”スケジュール” がはっきりしたことから、トレーダーは ”日銭稼ぎ” のための「キャリー取引」に殺到した構図だ。
*2019年11月には+40BP程度しかなかったFF-10年の金利差が今は+100BPを超え、買い持ちで「キャリー」すれば莫大な "日銭" を稼げる。金利上昇相場でこれまで我慢してきた米国債トレーダーは買いたくてうずうずしていたに違いない。パウエル議長は「 "テーパリング" の終わる来年6月までは "利上げ" はない」と言っているに等しく、こうなるともう我慢できない。 "強い雇用統計" も "低い実質金利" も関係なく、一斉に買いに走った。
思い起こせば "リアル" な「金利上昇」。ー 米2年国債@0.30%越え、5年@1.00%越え。↓ (9/28)を認識した時に比べれば随分「名目金利」は上がっている。2年債などは一時@0.56%まで上昇したわけで、**そろそろ金利低下方向に調整が入る場面ではある。だが、これも今の「デジタル相場」の特徴なのだろうが、動きがシャープで容赦が無い。
**ヨーロッパ国債も金利低下が急だ。スペイン、イタリアなど「高金利債」に買いが入ったのも米国債と同じ理屈。「利上げ」に一時ストップがかかった英国債も10年が@0.84%と@1.0%を大きく割り込んだ。ドイツ10年国債も@▼0.28%まで一気に低下したが、これもECBに「預金」した銀行に▼0.50%の ”罰金” が課される事を考慮すれば無理からぬ動きだ。
この金利低下を "大歓迎" したのが株式市場。NYダウ、S&P、ナスダック揃って連日史上最高値を更新。おまけに米国債の「キャリー取引」で莫大な "日銭" が入ってくるとなれば、まさに投資の「桃源郷」状態。ウォール街はウハウハで笑いが止まるまい。
この「桃源郷」がいつまで続くのか。
さすがに「テーパリング」が終了する来年6月までは引っ張れないだろうが、少なくとも2021年内、できれば来年3月までは続けたいところ。***10年米国債が@1.30~1.60%内で穏やかに推移するのが理想だろう。
***仮に10年米国債が@1.20%下回るようだと「局面の大転換」、例えば景気の急減速や株の大暴落が起きている蓋然性が高く、ウォール街には好ましくない。反対に@1.70%を超えるようだと「インフレ」の急加速などによる「利上げ」前倒しが起きている可能性が高く、これも好ましくない。いずれにしろマーケットが ”微妙なバランス” の上で成り立つ状況は続く。
「損切丸」もマーケットでは ”Old Timer" なので今の「デジタル相場」を完全に見通すことは難しい。1つ言えるのは金利トレーダーにとって「キャリー収益」の誘惑は抑えがたい ”麻薬” のようなものであり、上下動を繰り返しながらも当面金利の "低位安定" 局面が続くだろう。おそらく株や為替も連れて相応のボラティリティーに見舞われる。
1つ金利相場の支援材料を加えるとすれば、中国人民銀行が「資金供給」に乗り出したこと。国内政治要因があったとは言え、さすがに「中国恒大」をあっさり潰すのは危険と判断したのだろう。一時@3.0%を超えていた10年中国国債は@2.91%まで低下。利息を払ったり、資産を売却したりとのらりくらり「デフォルト」は回避している。少なくとも来年2月の「北京オリンピック」までは何とか "保たせる" はずだ。
とは言え、いつも想定通り行かないのもマーケットの常。今までは株式市場が米国債市場を気にしていたが、「キャリー取引」が積上がれば今度は米国債市場が株式市場を気に掛けるようになる。
いわば「株」と「金利」の ”シーソーゲーム” 。
生活面でも原油やガスなど「エネルギー価格」の推移も気になる。どこに「黒い白鳥」や「灰色のサイ」が潜むのか。注意を怠ってはいけないのは、これまでもこれからも同じである。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?