蟻に倒される象 ー e.g. ゲームストップ株の ”ショートスクイーズ” 。
”ゲームストップ株がストップ高”
なにやらおじさんの駄洒落のようでもあるが、株式市場ではちょっとした騒ぎになっているらしい。何しろ株価が年初来20倍にもなっている。↓
ゲームストップはテキサス州グレープバインに本社を置く世界最大のビデオゲーム販売店だが、その株が ”ショートスクイーズ” (株を買い上げて空売り勢を苦しめる戦略)を喰らっている。それも犠牲になっているのはメルビン・キャピタル等名の知れたところも含む複数のヘッジファンドで、仕掛けているのは個人投資家。まさに「象を喰う蟻」である。
個人投資家の株式市場における影響力拡大は 2021.1.4「オプション取引と相場急変動。」 ↓ でも書いたが、今回も「ロビンフッター」の「株オプション取引」が大きく関与している。文中でも説明したが、大量のコールオプション買が出ると売り手のマーケットメーカー=銀行はデルタヘッジ(原資産の動きに対するオプション価格の変動率)で該当株を一定比率で買うため、相場が一方方向に傾きやすい。特に今回のような流動性の低いマイナー株では動きが顕著になる。
今回決定的な役割を果たしたのが*「レディット」(Reddit)と呼ばれるオンライン掲示板。ここの ”WallStreetBetsReddit" というページで「どうもヘッジファンドが空売りで困っているらしい」という情報が拡散され、ゲームストップ株に買いが集中。上記のような株チャートになった。
*「レディット」は今日(1/28) ”WallStreetBetsReddit" のページを封鎖したらしく時間外でゲームストップ株は▼35%も下落。他の ”ショートスクイーズ” 銘柄も急落している。本当に何があるか判らない ”鉄火場” である。ビットコイン(BTC)だけ特別視できなくなってきた。
ヘッジファンドというのは結構 "まともな考え" で動くので、この上げ方を見れば「おかしい」と空売りに動くのは想像に難くない。だがいくら理論上割高であろうと、市場での勝ち負けは多数決で決することもある。「絶対おかしい」とムキになって逆張りするのは危険、の典型例である。
この話を見るに付け、思い出される話が2つ。
episode 1.米金利先物市場での「米投資銀行」VS「邦銀」
「XXXドマンが売ってまーす」
オープンボイスと呼ばれるスピーカーからブローカーの大きな声。毎月第1金曜に発表される米雇用統計発表の1分前だ。出た数字は弱めの予想を大きく上回り先物は急落。まるで事前に情報を知っていたかのような売りだ。弱めの予想に張って買いで構えていた邦銀勢は「損切り」を余儀なくされた。
こんな事が何回か続き「やはり米系には敵わないのか」と思いかけていたが、邦銀もやられっぱなしのままの訳にはいかない。邦銀間のチーフディラー会などで情報交換をするうちに、どうもこれらの ”指標発表直前取引” は事前情報などではなく ”仕掛け” らしいことが判明。市場で派手に売ると同時に下の板に利食いの買いを入れていた。ブローカーは下の買い板の情報にはダンマリを決め込み、言わば米系とつるんでいたわけだ。
これを知って邦銀は戦略を転換。雇用統計直前の売りにわざと買いをぶつけ ”仕掛け” を全部吸収、逆に買い上げたりした。指標発表後の相場の動きなど「材料出尽くし」等いくらでも後講釈ができるので、強い数字が出てもお構いなし。これで困ったのは米系で「損切り」の買い戻しを迫られた。相手の手口を知って逆を取れば ”パワーディール” で勝てるのである。
episode 2.バブル末期の「仕手戦」
株取引のベテランなら懐かしい響きだが、「バブルでみんなハッピー」の相場が終わり、市場参加者同士の叩き合いが始まった象徴が「仕手戦」だ。一部の資金力のある投資家が巨額の資金でターゲット企業の株を買占めて役員の送り込み等を要求。最終的には企業側に買占めた株を高値で引き取らせるのが目的で「ハゲタカ」とほぼ同じ手法。
最初はいいようにやられていた企業側も徐々に対策を拡充。特に銀行や証券会社から「仕手筋」の借入状況を聞き出すのが有効だった。当時は借入金利が@8~10%と高く、持久戦は「仕手筋」に不利。500億円を@8%で借りれば利息だけで1日11百万円、1か月で3.3億円もかかり、利息分のファンディングも含めたコストは複利で ”指数関数的に” 増える。ほとんどの「仕手戦」は借入がベースだったので、企業側に足元を見られることになった。
何をいいたいかというと、今回の "ショートスクイーズ” も「局地戦」に入ってきたということ。BTCに銅、とうもろこし、KOSPI指数等も同様。2020年までの「誰でも儲かるバカチョン相場」は終了し、**市場参加者同士の叩き合いに突入。過去の例に倣えば、あまり良くない兆候である。
**実際ゲームストップ株でファンドをやっつけた「ロビンフッター」の中には、保有するアップルやテスラ株で痛手を被った者も多いのではないか。 "ショートスクイーズ” で損を出したファンドは穴埋めで利の乗った株を売らなければならず、結果NYダウもナスダックも急落している。「誰でも儲かる相場」の後に「大多数が損する相場」がやってくることは相場の歴史が証明している。売買いの世界は所詮「ゼロサム・ゲーム」なのである。
「過剰流動性減少」「丑年のつまずき」「大吉おみくじの”相場は売れ”」「民主党相場」「(2年間)捨て駒戦略」「 Bold Markets (流動性の低い市場)の局地戦」...
2020.11.24「なさそうでありそうな2021年10大ニュース予想。」 ↓
1....NYダウは20,000ドル割れ、日経平均は18,000円割れ、ドル円は@90円割れ。
などと筆者も「妄言」を吐いているが(笑)、なにやら雰囲気が怪しくなってきた。ここは一旦大きめの調整を覚悟した方がいいのかもしれない。株の損失穴埋めで、利の乗っている米債や為替のドル売りポジションは一旦手仕舞ってくる可能性が高いが、最終的にはドル安や金利上昇が株価調整のトリガーになるだろう。金融引締め方向に傾きだした「中国」も気になる。「捨て駒」2021~2022年は "投資家受難" になりそうな雲行きだ。