「テレビ世代」の憂鬱。
アメリカ大統領選挙という一大イベントも通過し、マーケットは一息ついているようだ。今年は投資銀行業界もそれなりに儲かっているようなので、一足早いクリスマス休暇に入ったトレーダーも多そう。「金の亡者」に見られがちなトレーダーだが、欧米を中心に意外にも「家族思い」の人が多い。さしずめ今年は " Silent Night at Home" といったところだろう。
今回はマーケットから少し離れた話。「損切丸」は ”第1回” 東京オリンピックが行われた昭和39年生まれで、自称「テレビ世代」。カラーテレビ普及のきっかけとも言われており、まさに「テレビ」とともに生きてきた。
筆者が学生だった当時は「受験戦争」などと呼ばれ、「共通1次テスト」が導入されてそれなりに勉強したが、それでも必ず見るテレビ番組が2つ:
①「巨人戦」の ”ナイター” 中継
②「8時だよ!全員集合」
① ”ナイター” は完全な和製英語(笑)。当時のプロ野球は夜6時開始が多く、特に*「巨人戦」は週に5~6日、 ”ゴールデンタイム” の7~9時で視聴率@20%超えの人気番組。今なら考えられないことだ。
*筆者は中・高と野球部に所属し、いわゆる甲子園を目指す「高校球児」で(地元ではそこそこ強かった。笑)「巨人戦」は必ず見た。当時は大阪とか広島とか地方に根差した球団がある地域以外はオール巨人ファン状態。筆者も例に漏れず巨人が負けた翌日は何となく気分が悪かった。
だから東京に出てきて ”ナイター” を球場で直接見れた時はうれしかった。マーケット仕事に就いてからは、金利のブローカーさんがくれた招待券で東京ドームに行って松井選手のホームランが見れたりした。当時、松井選手と清原選手の2人だけ一回り体が大きかったことを強く記憶している。
「なんだこれ。試合が全然見れない。」
ある日見に行った試合で異変が起こる。通常7回を超えて試合が佳境に入るとビールの販売は止めるのに、その日は9回裏2アウトまで売り子さんがうろうろしていた。それも凄い数。だから試合を見るために立ち上がったり、首を横に動かしたりしなければ行けなくなり、とても不快な思いをした。
まわりを見渡すと空席もかなり目立ち、 ”似つかわしくない一団" も。おそらく ”ダフ屋” と呼ばれる売れ残りのチケットを安く売り捌く人達だと思われるが、 ”親分” をとり囲んで10数人で固まっている。 手にはみんなビール。正直雰囲気は良くない。これでは「野球付居酒屋」だ。
この頃から野球人気は下火になり ”ナイター” 中継も激減。野球少年だった筆者でさえ興味が失せた。優秀な選手はみな大リーグに行ってしまい、野球を見るのはBSぐらい。 ”崩壊” のきっかけは、あの「野球付居酒屋」だと今でも信じている。目先の収益にこだわった結果、長期的利益を損ねた典型だ。もっとも最近は広島など「地域密着型」で成果を出しつつある球団も出てきている。
②「8時だよ!全員集合」もお化け番組。視聴率はいつも30%を超えていて、見ないと翌日学校で友達との会話にも困った。「ちょっとだけよ」「カラスの勝手でしょ」とかみんなで連呼したギャグは数知れず。
メンバーが当時の事を振り返っていたが、リーダーのいかりやさんの詰め方が半端なかったらしい。土曜8時の放送に向けて日曜から金曜まで脚本からセット、リハーサルまでびっちりで、一見アドリブに見えたギャグもほとんど計算済みだったという。だからこその高視聴率だったわけだ。
当時と現在を単純には比較できないが、このように作り込んだ番組があまりにも少ない。テレビ局も番組企画を下請けに丸投げで、人気タレントやお笑い芸人を呼んだだけの番組で溢れている。業界は「視聴率」アップに血眼のようだが、これでは①「野球付居酒屋」と同じ。付け焼き刃的に目先の数字だけ追えば結果は明白だろう。
「テレビばっかり見ているとバカになるよ」
親に良くいわれた(今でも家族に似たようなことをいわれる。笑)。学校PTAが「子供に見せたくない番組」のダントツ1位が「8時だよ!全員集合」だったが、*今にして思えば子供の感性の方が正しかったのかもしれない。単純に番組が面白かったのだ。しかも内容を伴って。
*これは「漫画」もそう。当時の親は「漫画」ばかり読んでいると学校の成績が下がると信じて疑わなかったが、今や「漫画」→「アニメ」は日本を代表する「文化」にまで格上げ。今振り返っても当時の「漫画」は現在の「アニメ」の元になるアイデアが詰まっており、質は高かった。
この「テレビ世代」の代表のような筆者が最近テレビを見なくなった。つまらないからだ。テレビコマーシャルも見たこともないようなマイナーなものが増え、いかに広告料が下がっているのかを実感する。就職時にテレビや広告代理店を第1志望で廻った者としては正直悲しい。なぜこんなに落ちぶれてしまったのか。「半沢直樹」のようにきちんと作り込めば見るのに...。
プロ野球もテレビ業界も「油断」と「驕り」が原因だろう。ロッキード事件でマスコミが田中角栄首相を逮捕に追い込んだのをリアルタイムで見た世代をしては隔世の感がある。あれは徹底的な取材と「FACT」に基づいていたから真に迫ったのであって、現在のように「裏取り」もせずに目先の「視聴率」「ヒット率」を追いかけるだけでは成し得ない。その結果「率」が下がっているのは何とも皮肉。それほど視聴者がバカではない証拠だ。
若い世代が SNS や YouTube に流れているのは、それだけコンテンツが優れているから。彼らの感性は鋭い。だが個人で手掛けている分、情報精度に問題があるのも事実で、取材にも番組作りにも限界もあろう。事実フェイクニュースやネットいじめなど多くの問題が出てきている。
広告業界もD通などいろいろと問題が噴出しているが、これはチャンスでもある。やはり「世代交代」が鍵。 "昔" の良いところを取り入れつつも「昭和の亡霊」を早く払拭して欲しい。
頑張れ「テレビ」。(「テレビ世代」の代表として)