ドルウォン5day

人為的相場操縦の限界 其の2 - 突然反転したドル・ウォン。「介入」と「PKO」と「会計操作」。

 一旦ディスってしまうと(笑)、続報が書きにくいものだが、韓国の相場で面白い動きが出てきた。この3日間でドル・ウォン(USD/KRW)が1.195から1.206近辺まで急反発している( ↑ 標題5日チャート。ドル高ウォン安)。随分粘っていたのに、急にふわっと力なく戻した印象だ。

 何かに抗うように苦闘しながら上げていたKOSPI(=韓国総合株式指数)もストンと落ちてしまった。この1か月は元々主力個別株が下落基調にある中、無理矢理指数だけ上げている印象だったが、何か憑き物でも落ちたかのようである。(*個別株さえ確保できれば、裁定取引=個別株買・指数売、は随分儲かっただろう)

ここで一つドルとウォンのキャッシュフローについて仮説を立ててみる。↓

外貨準備のドル引出 → ドル売・ウォン買 → 買ったウォンでKOSPI買

ちなみに日本の財務省では、会計ルール上、↑ のような処理は不可能。

*外国為替介入の資金会計は「特別会計」というところで行われており、例えば円高時にドル買・円売介入をする場合は、政府短期証券(FB、Financial Bill)を日本国内市場で発行して調達した円を外国市場で売る。買って余ったドルは「資産安全性」の原則に鑑み、その90%以上を米国債で運用している。逆にドル売・円買介入する場合は、保有している米国債を売却し、国内のFBを償還することになる。だから、買ってきた円が株に向かったりはしない(法律の改正が必要なはず)。これらの会計上の数値は全て公表されており、ガラス張りになっている。
**一昔前、「円キャリートレード」全盛時に「円非不胎化介入」で円安がどんどん進む、という議論がヘッジファンドなどで流行ったが、キャッシュフローを分析するとそれが詭弁であることがわかる。円に関しては売るための円をFBで市場から調達してくるし、買ったドルも運用によって100%ドル市場に還流する。つまり、両通貨とも資金需給は完全に中立なのである。もっと詳しく言えば、例えばドル買介入で一時的にドル売り圧力を弱めるが、ドルが債券市場に戻ることによって金利が低下し結局ドル売りを誘発するので、長い目で見れば為替市場への影響も中立のはず。ちなみに世界第2位の外貨準備高=1兆ドル(約100兆円)を誇る日本であるが、介入のための円資金は市場でFBを発行して調達している。つまりヘッジファンドも真っ青の世界最大級の「円キャリートレード」が行われているのである。

 仮に韓国の外為会計で ↑ 仮説のような処理をしているとすれば、今回の出来事は一応辻褄が合う。つまり外貨準備のドルがあるうちはウォン安、株安を止める介入に効果を発揮するが、弾がつきればそれも止まってしまう。もともとウォン売・ドル買介入のため借りたウォンは返済せず、ドル資産を売って戻って来たウォンで国内株を買う=「KOSPIキャリートレード」に転換した事になる。韓国の財務会計制度には精通してないが、果たしてこれは適法なのか?(もっとも彼の国で法律の議論をするのはあまり意味がないのかもしれないが...)

 持っている純資金を運用するケースと違い、今回例示した「キャリートレード」=資金を借りて別の資産に運用する取引手法、では長期的にうまくいかないケースが多い。特に介入のように力ずくで市場を動かそうとするケースは「神の手」=市場の調整作用によって本来あるべき適正値に戻ってくる確率が高い。日本のバブル時の「仕手戦」などが典型だが、借入資金が底をつけば一気に反転する、非常にリスキーなやり方なのである。ヘッジファンドが「レバレッジ」と言っているのも基本同じ手法。例えば1億の資金をレポ市場などで資金の再調達を繰り返しながら5億、10億と膨らませる手法で、借金がつきればそれまでである。

 真偽の程も確認できないし、今や半ば興味半分でしか見ていない韓国市場だが、「神の手」の存在を確認する「マーケットの実験」と思ってみれば、まあそれなりに面白いかもしれない。ただウォン建の純資産を持っている方々にとっては笑い事では済まされまい。ちょっと気の毒ではある。

 もの凄く必死に力を入れてマーケットを動かしてきたのに、*戻るときはあざ笑うかのようにふわっ、ストン、である。これまで頻繁に見てきたパターンだが、さて「神の手」の存在やいかに。(続)

*ちなみに、ノーベル賞学者のショールズ博士(オプションの「ブラック・ショールズ理論」を確立した学者として有名)等が立ち上げたヘッジファンド「LTCM」が破綻した時は、「ロシアのデフォルト」をきっかけにドル円が3日間で20円強下落した。当時「LTCM」は10兆円以上の「円キャリートレード」(=為替市場で円を売ってドルなどの資産に投資)を実施。日本国債のレポ市場を中心に銀行から資金調達していたが、最後にロシア国債のデフォルトに引っかかった。さすがにストン、というほど軽くはなかったが、「損切丸」の手元にも突然2兆円返済してきた(実話です)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?