除染マップ

Voices from FUKUSHIMA - 原発に本当に「投資価値」はあるのか?

 「国は約束を守れ」

 2019年12月某日の福島地方紙朝刊の1面見出しである。そう原発事故関連の*「除染」の話だ(どこかの外交の話ではない)。被害の大きかった浪江町、双葉町、大熊町について除染作業の進展にばらつきがあり、国が約束した作業が十分に行われていないことを訴えた記事だ。

 *「損切丸」はご存じのように経済やマーケットが専門。珍しく電気のことを書こうとはしているが、技術的な部分は全くの素人なのでここで専門的な議論をするつもりはない。今回はあくまで原発を巡る「経済的枠組み」の話。タイトル通り Voices from FUKUSHIMA 、福島生まれの1人として。

 みなさんは福島の放射能の現状をどのくらい把握されているだろうか?うちの郡山の実家では、11月(2019年)にようやく「除染」と言われる作業が入ったが、庭の土を1㍍ほど掘り起こして埋め直しただけ。それも8年も経ってからだ。実家の隣の公園には未だに線量計が設置されており、毎朝毎晩天気予報で各地の放射線量を放送している。仮設住宅で暮らしている方もまだかなりいらっしゃる。今暮らしている東京とは認識ギャップがかなり大きいが、福島県民にとって原発事故はまだまだ身近な問題なのである

 さて、最近環境問題で話題のグレタさん。COP25で日本は脱炭素に消極的だと批判の的にもなっている。グレタさんの主張はもっともだし、彼女を個人的に非難するつもりはない。ただ、16歳の女の子を祭り上げている構図に違和感を持ってるのは「損切丸」だけではなさそうだ。

 筆者が危惧するのは、「理想主義」の特長であり弱点でもある「強く感情に訴える手法」訴えに具体性、個別性=「リアル」が欠落しているのだが、「16歳の少女」となれば周りは批判しにくい。

 さて、日本のCO2削減には原発政策が大きく関わっている。政府は何が何でも原発を再稼働させるつもりらしいが、2つ大きな問題がある:

 1.重要度: CO2 > 放射能?

 そもそも二酸化炭素を減らすために放射能を使う、というロジックが破綻している。放射能は半減期が2万年なんてものもあるらしいし人体への直接的影響も全然違う。ローマ教皇もおっしゃっていたが、人類は放射能を制御しきれていないのだから、そんな物を動力源に使うのは「無理筋」である。

 2.コストパフォーマンス

 ↑ 1.ほど重要ではないが、原発派のよりどころになっている「原発が安い電源」というロジックも既にかなり怪しい。福島の現状を見れば明らかだが、事故対策や放射能廃棄物の研究・処理にいったい何兆円かかるのか? 

 今回の福島は一例だが、世界各地、様々な**「リアル」があり、その調整には膨大な「大人」の労力が必要になる。グレタさんのせいではないが、「理想」だけで世の中が変わるならこんなに楽な事はない。機会があれば、ぜひ彼女に福島の原発の「リアル」を見学に来て貰いたい。CO2を減らすために原発再稼働に賛成するだろうか?(もちろんしないと思う)。

 **この辺の構図は、実はマーケットに似ている市場は「リアル」の固まり。願望や理屈だけで儲かるならこんな楽なことはない。実際にはより具体的で客観的な考察が必要になる。しかし、どんな相場にも「抜け道」は必ずある。CO2を減らすための電源の問題も解決可能なはずだ。

 電力の話で言えば、例えば太陽光買取りのためのFIT制度が2019年の11月から順次終了する。買取り価格が約40円/W → 8~10円に急落してしまうので、当然太陽光パネル保有のインセンティブは下がる。そこで電器メーカーが「蓄電池」をセールスしようと躍起になっているようだが、FITに相当するようなリターンはとても得られない( ref. 買取@200~500万円)。

 原発対策費の一部でも他の電源に回せれば、***原発がなくとも「石炭火力」の一部は代替出来るのではないか。天候に左右される太陽光「蓄電池」等々、他の電源にもいろいろ技術的、あるいはコストの問題はあるのだろうが、少なくとも原発の放射性廃棄物の処理より困難だとは思えない。

 ***近年の「仕組みの代替」の好例は「ETCカード」。導入前には「雇用がなくなる」など大騒ぎになったが、いざ導入してみれば、渋滞緩和とそれによるプラスの経済効果など良い事づくめだ。肝心の「雇用」もETCの機器関連などで新たに生まれ、何の事はない、「既得権益」の側が不当に騒いでいただけだったことが明白になった

 原発がなくなると困る「既得権益」はかなりの規模だ。しかし相場や投資と同じで、得られる成果は金額が小さくても大きくても一緒。代替電源事業でも、「ETC」導入時同様、新しい雇用や経済効果が期待できるはずだ。おそらく****小泉元総理はこの点を言っている。

 ****息子の進次郎環境大臣が「Sexy」発言で随分叩かれていたが、あれを騒ぐのはやめた方が良い。日本人がいかに英語力がないのか、国際的にアピールするようなものだ。おそらく「魅力的な提案」というニュアンスで「Sexy」を使っているのだろう。つまり、人の揚げ足をとったり批判ばかりするのではなく、みんなが「飛びつくようなアイデア」を出そう、と言う意味。イギリス人もトレードが上手くいくと、よく「Beautiful!」と言っていて日本人の筆者には何となく違和感があったが、同じような例だ。

 「新しい電源」に対して企業や個人が前向きに「儲かる仕組み」ができないものだろうか。FIT方式でなくても良いが、事態を前に進めるには経済合理性も必要だ。原発に固執してお金を使い続けるのはザルに水を溜めようとしているようで、「投資」としても謝った方向だと思う。

 表面的には安いことになっている「石炭火力」も、「温暖化」によって自然災害が増えている現状では「本当に安い」のか疑わしくなってきている。世界中で巨大化するハリケーン、サイクロン、台風等、毎年兆単位の災害対策費を使うのであれば、「温暖化」抑止効果のある他の電源(但し原発を除く)の方が「安い」ことになる。

 16歳の少女に言われるまでもなく「何とかしなくては」と思っている「大人」は結構多い。ただこういう時、「しがらんでしまっている大人」は障害になる事が多いので、日本もしがらんでいない「女性宰相」や30~40代の若いトップが引っ張るべき時期に来ているのかもしれない(期待を込めて)。

 もう子供が「How Dare You !」なんて言わなくていいように。

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