日銀は方針を変えたのか? ー 「5年物共通担保オペ」の意義。
「大緩和」のあとしまつ。|損切丸|note に乗り出すかと思われた日銀政策決定会合(1/17~18)では「変更無し」と報じられ、ドル円がドタバタ動いた。だが1つ気になっていたのは今日(1/23)実施される「5年物共通担保オペ」。筆者は日銀の方針変更の "羅針盤" と見ている。
専門用語になるので「共通担保オペ」について説明しておこう。
日銀に「当座預金」を開いている銀行等金融機関は、その規模に沿ってかなりの金額の「適格担保」を日銀に据え置いている。それを「共通担保」と呼んでおり、JGB(日本国債)を中心に適格基準を満たした社債や貸出債権(手形等)を差し入れている。
主な使い道は:
中央銀行には「資産健全性の原則」が課されており、貸し倒れを防ぐために資金供給=「お金」の貸出は(優良)担保付きが原則。各担保には10~30%程度の「担保掛け目」が設定され、日銀の貸し倒れが起きないような仕組みになっている。
1/5現在日銀に差し入れられている据置担保は約141兆円(担保価額121兆円)、うちJGBが21兆円(20兆円)だ。「日銀当座預金」保有先はこの担保の範囲内で ↑ ①②を日銀から借りる事が出来る。
(参考)「日本の収支」↓
特に①「日銀当座貸越」は銀行など金融機関にとっては ”命綱” 。危機対応の「コンティンジェンシー・プラン」(Contingency Plan)の中核を為す。ブラックマンデーやリーマンショック等金融危機が起きて市場機能が麻痺した時に駆け込める、いわば "最後の砦" 。直近では*「東北大震災」(2011)で出し手が「お金」を貸し渋った時に大きな役割を果たした。
②「共通担保オペ」に関しては、本来はこれが「日銀オペレーション」の中核。現総裁が「バズーカ」を始めてから「資産」を丸ごと買入れるのが常態化してしまったが、これは危機対応時などの異例措置だ。
これは「正常化」への道筋ではなかろうか。
700兆円以上に膨張してしまった「日銀バランスシート」↓ を元に戻すには「国債無制限買取オペ」はいつまでも続けられない。マーケットでJGBの取引が成立しない事態にまで悪化しており、 "待ったなし" の状況だ。
日銀据置の担保価額は現在121兆円であり、これで日銀による「お金」の供給は「無制限」ではなくなる。しかも据置担保の内約半分は危機対応の「コンティンジェンシー」用。いざという時のために取っておかなければならない。そうすると "リアル" な利用可能額は60兆円程度。”バズーカ” の後始末 ー 「10年日本国債@0.25%無制限買取オペ」の深層。|損切丸|note としては良く練られた策である。
その辺りを踏まえた上で、本日の「5年物共通担保オペ」の結果:
入札前に5年JGBは@0.18~0.19%気配で推移していたから、仮に案分レート@0.11%で入札して同時に5年JGB@0.18%を買えばほとんどノーリスクで+0.07% ”抜ける” 。リーマンショック前なら、これをアービトラージ(金利裁定、 "鞘抜き" )と称してガンガンやる外銀もあった。1兆円積み上げれば年間+7億円×5年=+35億円の儲けだ。
だが時代は変った。
バーゼルⅢ等銀行規制は格段に厳しくなり、バランスシートが膨張すれば相応の資本拡充を迫られる。年間たった+0.07%の儲けでは資本コストの方が遙かに高く割に合わない。加えて担保掛け目の分、銀行は自己資金の持ち出しになり「資金効率」も悪い。外銀に限らず邦銀もこんなチンケな "鞘抜き" をする余裕などない。
いずれにしろ最も大事な点は、これまでの「国債買入」と違ってオペで「お金」を借りた銀行がその使い道を自分で考える事になる点だ。貸出に充てる銀行もあるだろうし、JGBを買う銀行も出て来るだろう。5年の円スワップを受ける(国債買いと同じ金利低下方向の取引)かもしれない。つまり、**相場形成を銀行などの市場参加者に委ねる恰好になる。
シンプルに言えば「バズーカ」前に戻るということ。これで ようやく終わる ”狂気のバズーカ時代” → 本格化する世界の「QT」(量的引締)。|損切丸|note 。まだ時間がかかるが、次の新総裁就任に向けて道筋を付けようという意図だろう。あとは「大震災」とか「パンデミック」とか「クラッシュ」とかの異常事態が起きないことを祈るのみ。今度こそ「新時代」が始まる。「預金」にも「利息」が付くようになるだろう。期待も込めて。