「金利の魔法」 に要注意。- ようやく「仕組み債」に重い腰を上げる金融庁。
”オージー・バルーン” "EB債" "スノーボール" … etc., etc.。
「こんなふざけたネーミングで大丈夫なの?」
「仕組み債」の営業担当者が良く「損切丸」を訪ねてきたが、さすがに "スノーボール" = ”雪だるま” って…。確かに組み込んでいるオプションは相場がある一定の水準を超えると買った顧客の損失が ”雪だるま” 式に増える商品だったが、さすがに不謹慎。当時高金利の豪ドルと円の金利差を利用した ”オージー・バルーン” も ”風船” が膨らんで破裂するイメージ。
発行する各債券の額は1~2億円。100億円単位で「資金繰り」をしていた「損切丸」としては金額が小さ過ぎて、発売当初難色を示した。結局本店からたしなめられて渋々OKしたが、最終的には残高が1,000億円近くまで膨らんで驚いた。それだけ日本国内で売れに売れたということだ。
といっても、これは2016年以前の話。↑ 標題添付のグラフは2017年以降の「仕組み債」市場残高推移だが、まだ4兆円もあるのかと驚く。販売主体は国内証券や地銀だが、商品を卸していたのが外資系投資銀行である。
「あ~、また日本人が犠牲になるのか。なんでこんな債券買うかな…」
筆者はずっと複雑な思いを抱えていた。投資銀行がこれだけ販売に躍起になるのは、それだけ儲かるから。大体の「仕組み」はこうだ:
こう図解すると高等技術を用いているように見えるが、簡単に言えばオプションを市場から顧客に流す時に "鞘" を抜いているだけ。ポイントは:
①顧客に「オプション売り」をさせてリスクを転嫁
②受け取った「オプション料」を金利に計算して上乗せ
こうやって本来@1%しかないはずの金利が@8%の高利に化ける。オプションはドル円だったり日経平均や個別株だったりトルコリラだったりするが、要はそれらが暴落した場合、固定された「ストライク・プライス」で買う "義務" を負う。
実は仕組みがよく似たものが世の中にもあった。2016~2017年に問題が表面化した「カボチャの馬車」に代表される「投資アパート」だ ↓
こちらも仕掛けは単純明快。原価計算すれば土地+建物=1億5千万円の「投資アパート」を2億円で売って儲けていた。ここでかける "魔法" も「想定利回り」、やはり「金利」だ。家賃収入が年間1,600万円あれば、確かに計算上@8%にはなる。問題は:
①空室リスク
②ローンリスク
③再販リスク
頭金が1億円以上あれば何とかなるかもしれないが、1億8千万円も20年ローンを借りて年間1,500万円を返済すると①②満室なら返せるが何部屋か空室が出るだけで家賃だけでは返せなくなる。そして更に問題なのが③困って売却しようにも原価の1億5千万円以上では売れない。つまり借金だけが残ってしまう。こうして自己破産に追い込まれるサラリーマン大家が続出した。
「仕組み債」も「投資アパート」も共通するのは法外な上乗せ代金。時価会計(MTM、Mark to Market)の概念を利用するなら、どちらも買った時点で▼1,500万円、▼5,000万円「損」している商品。「金利の魔法」に騙されてはいけない。
金融庁もようやく厳格姿勢に転じたが、「”怖い” 金融庁検査」ー 「半沢直樹」の現場・時代から。|損切丸|note だったのだから、もう少し早く手を打てたはず。「清貧思想」で「お金」に甘い日本人が「自己責任」の名の下にどれだけ餌食になったことか。そもそも「投資」や「リスク」の "教育" が浸透していない段階で野放しにすべきではなかった。
金融庁も何もしなかったわけではない。商品のリスク説明の重要性など「 ”怖い” 検査」で厳しくチェックしてきたが、被害が拡大してようやく重い腰を上げた。まるで人が死なないと捜査に乗り出さない警察のよう。日本という国は何かを変える時には「犠牲」が必要らしい。
ゴチャゴチャと指導しなくても、問題を解決する方法はある。筆者の提案は買った時点での「時価評価」や「原価明細」を明示すること。
「この仕組み債は▼1,500万円の評価損です」
「この2億円のアパートの原価は1億5千万円です」
こう言われて買う顧客はいない。これでは商売が成り立たなくなるのでそこまで規制は出来ないが、一事が万事、買う方が賢くなるしかない。「お金」に拘るのが格好悪いと嫌がる「昭和世代」を筆頭に餌食になりやすい日本人。せめて土地と建物に分けて原価を探るとか、元になるオプションの市場価格を聞いてみるとか、嫌がらずに調べてみることだ。
最も簡単な方法は:
「この仕組み債/アパート、明日売ったらいくらになりますか?」
”鞘” を抜いてぼろ儲けしようとする業者にはこれが一番効果的。なにしろ奴らは ”FACT" を白日の下にさらされる事を最も嫌がる。これはマーケットもウォール街も然り。彼らの ”魔法” に惑わされてはいけない。「自己検証」が基本である。
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