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「頭と尻尾はくれてやれ」。 ー どこで「相場」を降りるのか、その難しさ。

 相場やマーケットでよく言われる "箴言" (しんげん)だが、実はこれがなかなか難しいどこが ”頭” でどこが ”尻尾” か。時と場合、あるいは時間軸の取り方でも違ってくるからだ。特に「利食い」「利益確定(利確)」は「損切り」よりはるかに難しい。その事を物語る言葉でもある。

 ①NYダウ②ナスダック③原油価格を例に、ここでは2020年末に買って現在に至る1年半を時間軸として説明してみよう。

 ①「もう少し待とうかな」パターン e.g. NYダウ@30,606.48

 「@35,000~36,000で売りそびれた」
。これが2020年末にNYダウ@30,000ドル近辺で買った人の一般的な感想。この@35,000~36,000がまさに ”頭” 。これを諦めなさい、というのがこの "箴言" が示唆している点だ。ただ@36,000台の ”高値” が強く残像として残ってしまうので、どうしても「もう少し待とうかな」というが出る。だが再度相場が下がって「損切り」になっては元も子もない。今ならまだ利食える

  ②「せめて持ち値に戻るまで」パターン e.g. ナスダック@12,288.28

 「せめて損が出ないように…」
。これが2020年末にナスダック@12,000ドル台後半で買った人の気持ち。確かに持ち値までもう少し@11,300台をつけた時はかなり肝を冷やしたはずなのに相場が戻ると "欲" が出る。悲しいかな、自分に厳しく出来ないのも人の "性" 。それ故の "箴言" でもある。

  ③「しまった、利食いが早すぎた!」パターン  e.g. WTI@48.18

 「買値の倍になったし、とりあえず利食っておこう」
@90ドル台で利食ったWTIがまさか@115ドル台になるなんて…。しかももっと上がるかもしれない。3つの中で唯一 ”頭” が見えていない。儲けが出ているからいいようにも映るが、90ドル台で「売り」ではなく「買い乗せ」していれば莫大な利益が出た。更に一旦売ってしまってから、その上の価格で買い直すのは心理的に厳しい。ここから@150ドルまで上伸する可能性もあり、ここで買い直せずに儲け損なえば最大の「機会損失」。だから「利食い」は難しい

 最後は「自分との対話」。ー 何度も ”生き直す” 相場の中で。|損切丸|note。下手な旅より余程「自分探し」に役立つ。大事な「お金」を掛けているからこその真剣勝負であり「人間性」が顕わになるここ数年の「過剰流動性」で進んだ一方的な買い相場では「AI投資」などが持て囃されたが、ここから先はそうはいかない。いくら*金融技術が発達しても、最後に残るのは「人間臭さ」だから相場は面白い

 筆者が相場駆出しの頃、颯爽と登場したのが「オプション」。創生期には各銀行に莫大な利益をもたらし「夢の商品」のように扱われた。だが結局はプライシングの理屈とリスクの理解が進まない中、顧客が「理論値」からかけ離れた価格で売買させられ「鞘」を抜かれたに過ぎなかった。"からくり" に気付いた大手企業は、最終的にシンプルなドル円売買に回帰した。

 いつの時代にも "流行り" はある。ビットコイン(BTC)の ”ガチホ” 戦略、ナスダックにレバレッジをかけた ”レバ・ナス” 、あるいはNYダウなどにリンクしたETFなど、ここ数年大儲けした個人投資家もいる。だがマーケットは基本「ゼロサム」(Zero-Sum)。全員が儲かる相場は存在しない。

 今後は「腹八分目」=「頭と尻尾はくれてやれ」で振り落としから生き延びた者だけが生き残るクオンツなど「理論派」にとって「過剰流動性」は非常に厄介で随分振り落とされたが、今度は「逆の波」が来ている。

 今回ゲームが急旋回するきっかけになったのが「インフレ」。遅くとも2021年末の パウエル議長の "心変わり" 。|損切丸|note でゲームの質が変わった。それまでは株等のリスク資産は「どこで買うか」が焦点だったが、2022年に入り「どこで売るか」に変質「インフレ」抑制のために「過剰流動性」が縮小に向かうことになったからだ。

 とはいえFRB+米政府が「株安」を放置することはあり得ない「株」の時価総額は米経済そのものといっても過言ではない。 「俺たちは "低金利" "過剰流動性" が好きなんだ!」 Ⅱ 。 ー 日米欧、その "優先順位" の違いとは...。|損切丸|note で9月の「利上げ」停止を言い出して米国債金利は急低下株価を下支えしている。

 この「9月」がキーワード。なぜなら▼950億ドル ≓ ▼12兆円/月もの「QT」が本格始動するから。金利の引上げを一旦止めて、マーケットの様子を見ながら金融引締を進めたいのだろう。「株本位制」のアメリカらしい漸進的アプローチである。

 ただそれで「インフレ」を抑え込めるのか。筆者も含め「2021年前半に利上げを始めるべきだった」という声は根強い。つまり「バイデンーパウエル」コンビは一度致命的なミスを犯している。当時も株価に配慮して「利上げ」が遅れたのに、今回も同じ過ちを犯すのか。疑心暗鬼は消えない。

 「9月」といえば大統領選の「中間選挙」真っ只中。そういう恣意的な判断は相場を狂わせる。マーケットとの対話が本当にできるのか、アメリカも正念場。それは同時に投資家やトレーダーも「頭と尻尾はくれてやる」覚悟が試される場にもなる。何事も "ほどほど" が一番難しい

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